バスマットの由来はプランクトン? 多彩な「珪藻」の神秘的ビジュアル

レビュー

5
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驚異の珪藻世界 The Amazing World of Diatoms

『驚異の珪藻世界 The Amazing World of Diatoms』

著者
出井雅彦 [著]/佐藤晋也 [著]/デイヴィッド・マン [著]
出版社
創元社
ISBN
9784422430355
発売日
2020/12/17
価格
4,950円(税込)

書籍情報:openBD

バスマットの由来はプランクトン? 多彩な「珪藻」の神秘的ビジュアル

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 顕微鏡写真の美しさに圧倒されるビジュアルブックである。研究者による解説部分も充実、しかも日本語と英語で併記されている。日ごろは珪藻と言われても、思い出すのはせいぜい「珪藻土バスマット」ぐらい。でもこの本で珪藻を初めてよく見て、心をつかまれた。

 珪藻土とは、珪藻の化石(なかみの有機物は分解されてなくなり、カラの部分が残る)が堆積してできた石のようなもの。だから無数のスキマに水分をキープできるんですね。そして珪藻とは、水の世界の食物連鎖を底辺で支える植物プランクトンの一種だ。海藻の仲間だけれど極小サイズ。顕微鏡写真は、いろいろな珪藻たちの形を、非常に繊細な光でとらえている。

 形は、円盤状、クッキーやあめ玉のようなコロンとした四角、星形、バナナ状など多彩。単細胞生物なのに、互いの櫛状のトゲトゲを歯車のようにがっちり組み合わせて連結していくものもいる。そして目をみはるのは表面の状態が多彩なことだ。網目やトゲトゲのほかに、模様つきのものも多い。模様は一見すると幾何学的なパターンのようだが、注意深く見ると一つ一つの模様が微妙に違っていて、たとえばさまざまなアルファベットが並んでいるように見えたりする。ナスカの地上絵ふうの模様もある。神秘的である。

 珪藻はこんなにカワイイのにスゴイやつでもある。珪藻が生み出す酸素の量は、光合成によって作られる酸素全体の約20パーセント。そして珪藻が吸収する炭素の量は熱帯雨林を上回る。人間たちは今ごろになって「脱炭素社会」なんて言い出したが、珪藻ははるか昔から炭素を回収しつづけてきた。

 いま、わたしは「疫病で世界が苦しんでいる」などと言ってしまうことがあるが、世界ってもっとずっと奥深く力強いものだ。見えない部分の美しさや頼もしさをこうして知ると、気持ちが少し明るくなる。

新潮社 週刊新潮
2021年1月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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