世界のひきこもり ぼそっと池井多著
[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)
「ひきこもり」は定義が難しい。日本だけの特異な現象ではなく、世界のどこにでもいるらしい。大昔なら「世捨て人」、アルプスの少女ハイジのおんじもひきこもりといえなくないが、彼らは社会からその存在が認識されている。しかし、現代のひきこもりは、社会から存在そのものがないことにされている。
本書は、「世界ひきこもり機構」を立ち上げたひきこもり歴35年の筆者による世界のひきこもりたちとの対話集だ。タイトルはキワモノっぽいが、筆者は語学が達者なノンフィクションライターなので、しっかりした読物になっている。ひきこもりは多種多様、要因も複雑、「解決策」も一筋縄ではいかない。と同時に、この対談はインターネット時代だからこそ可能だった試みであり、ひきこもりにとってインターネットは無限の可能性を与えてくれることもわかる。私たちが抱くイメージは一面的で浅薄だ。
効率化、画一化される現代社会では、ひきこもりはむしろ増えていくだろう。コロナ禍で誰もがひきこもりになってしまった今、その深淵(しんえん)を覗(のぞ)きみることは無駄ではなかろう。 (寿郎社、1800円)