【聞きたい。】前田達之さん『中銀カプセルスタイル 20人の物語で見る誰も知らないカプセルタワー』

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【聞きたい。】前田達之さん『中銀カプセルスタイル 20人の物語で見る誰も知らないカプセルタワー』

[レビュアー] 黒沢綾子

 □残したい昭和の名建築


前田達之さん

 東京・銀座8丁目でひときわ異彩を放つ「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」。昭和47年に完成したカプセル集合住宅で、建築家、黒川紀章設計による「メタボリズム(新陳代謝)建築」の代表作として知られる。円窓のあるレトロフューチャー的極小空間(10平方メートル)は、映画やドラマのロケ地でも国際的人気を集めてきた。

 一方で、ビルは長らく解体の危機にある。2本のシャフト(幹)に計140個のカプセルを取り付けた構造で、当初は約25年でカプセルを交換し新陳代謝をするはずだった。しかし49年間、一度も交換されることなく老朽化が進んでいる。

 地主らを中心に建て替えの話が浮上する中、昭和の名建築を未来へ残そうと7年前、保存派のカプセル所有者や住人が有志グループ「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」を結成した。代表の前田達之さんは、自身も15個のカプセルを所有。一般向け見学会など地道な活動を続ける中で、「より広く建物の魅力を知ってもらい、ファンを増やすことで保存への機運を高めたい」と本の刊行も積極的に行ってきた。

 3冊目となる本書では、カプセル内の写真を中心に、職業も年齢も国籍も違う住人たちのライフスタイルに焦点を当てている。茶室のような別宅、コスプレイヤーのSNS発信拠点、リモート用オフィス…と使い方はさまざま。「すべて同サイズの立方体。カプセルを交換できなかったために当初の内装からリノベーションが進み、個性や違いが出ているのが面白い」

 残念ながら漏水など劣化は深刻で「このまま使い続けるのは不可能」という。「やはりカプセル交換によってメタボリズムの思想は実現する。その上で耐震補強など改修を行い、後世へ残したい」。専門家の間では文化遺産としての価値も指摘されている。現在、保存再生を前提に建物ごと購入する買い手を探しているという。(草思社・2400円+税)

 黒沢綾子

   ◇

【プロフィル】前田達之

 まえだ・たつゆき 昭和42年、東京都生まれ。編著書に『中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟』など。

産経新聞
2021年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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