『スポーツを変えたテクノロジー アスリートを進化させる道具の科学』

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スポーツを変えたテクノロジー

『スポーツを変えたテクノロジー』

著者
スティーヴ・ヘイク [著]/藤原多伽夫 [訳]/浅井武 [解説]
出版社
白揚社
ジャンル
芸術・生活/体育・スポーツ
ISBN
9784826902199
発売日
2020/09/15
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

『スポーツを変えたテクノロジー アスリートを進化させる道具の科学』

[レビュアー] 蔭山実(産経新聞編集長)

 ■記録向上の先にあるもの

 「弘法筆を選ばず」という。だが、スポーツの世界はなかなかそうとはいえないようだ。ゴルフの話題になると、あのメーカーのクラブなら間違いないといった声をよく耳にする。草野球では、バットの長さや重さ、バランスが気になる人は多いのではないか。陸上のスパイクで新商品のニュースを追えば、パラアイスホッケーで選手が座る器具を最良にしようと、企業が地域の活性化も兼ねて奮闘する話を取材したこともある。

 「勝つうえでアスリート自身の重要性は薄れ、テクノロジーがすべてになっていくのか」。スポーツ工学の草分けがそうした疑問に答えるべく、古代オリンピックから現代に至る歴史を振り返り、スポーツと道具の不思議な付き合いを技術と規則の対比を交えながら解き明かす。

 テニスはラケットの形状や軽量化でパフォーマンスが向上した。最も軽いのは素手だとなると競技は原始に戻り、それを望む選手はいない。ゴルフボールは表面のくぼみができて安定して遠くまで飛ばせるようになった。だが、飛びすぎるとコースが相対的に短くなり、競技の魅力は減る。かつてのプロ野球の「飛ぶボール」も同じだ。

 「最初に決められたルールはたいてい最良の見解だったのだが、プレーのスタイルが変化したり、新たなテクノロジーが現われたりすると、ルールは変わる」。実は、この繰り返しの中で記録は向上してきた。それが続くとどこに至るのか。それが本書の目指す着地点である。

 スポーツを変える技術はまず素材にあり、弾力性のあるゴムの開発は決定的だったという。将来はもっと軽量で硬い新素材が道具に利用されそうだ。一方で、著名な選手が使う道具ならうまくいくという心理効果はすでにいわれるが、脳や細胞といった人体に働きかける技術が本格的になるかもしれない。

 だが、「テクノロジーの向上を公平かつルールに則(のっと)ったアドバンテージと見るか不正行為と見るかをどのように線引きするのか」という問題は消えない。競泳の水着をめぐる議論を思いだしてみよう。どのような世界になろうと、スポーツは誰にとっても楽しいものであってほしいと思う。「弘法も筆の誤り」ということもあっていい。(スティーヴ・ヘイク著、藤原多伽夫訳、浅井武解説/白揚社・2400円+税)

 評・蔭山実(文化部)

産経新聞
2021年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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