『リモートワーク段取り仕事術』
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リモートワークで「ひとりで考え込んでしまう人」に潜むデメリットとは?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
リモートワークが一般化するなか、「なかなかうまくいかない」というような悩みを抱えている方も少なくないのでは?
しかし『リモートワーク段取り仕事術』(相原秀哉 著、明日香出版社)の著者は、「リモートワークはなんら特別なことではありません」と断言しています。
たとえば取引先や業務委託先とやりとりをする場合、多くの人はメールや電話、FAXなどの通信技術を利用しているはず。それは、先方との間でリモートワークをしていることにほかならないというのです。
つまり会社でリモートワークを導入するというのは、それまで社外とリモートでやりとりしていたことが、部署内や社内に広がっただけのこと。
したがって、リモートワークを特別視する必要はないという考え方。多くの人はすでに、部分的にはリモートワークを経験し、慣れているはずだというのです。
著者が2005年に入社したIBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(現・日本アイ・ビー・エム株式会社)では、当時から本社やクライアントのオフィス、各地に置かれたサテライトオフィスなどに散らばる人たちが、協業して仕事を進めていたのだとか。つまり、それは紛れもないリモートワークだったわけです。
しかも現在はそのころよりも格段に、スマートフォン、Web会議ツール、チャットツール、さまざまなクラウドのアプリケーションが充実しています。
リモートワークを快適に行うための環境は、間違いなく整っているわけです。
しかしその一方で、リモートワークに不安を抱えている、あるいはコミュニケーションの取り方やモチベーションなどの面で悩んでいる人が増えているようです。
リモートワークそのものは特別なものではないものの、離れた人と円滑に仕事をするにはリモートワークの特性を生かす必要があります。(「はじめに」より)
そのためここでは、リモートワークに関しての「よくある悩みや困りごと」を乗り越えるためのコツや情報を紹介しています。
きょうはそのなかから、第6章「マインド・思考編」に焦点を当ててみることにしましょう。
ひとりで考え込むのはすぐにやめよう
リモートワークに多い困りごととして多いのが、任されている仕事が行き詰まったり、問題が起きたりした際に、誰にも相談できず、ひとりで抱え込んでしまうこと。
個人レベルのデメリット
そして、そのような場合の問題としては、個人レベルでは「仕事の停滞」や「事態の悪化」「モチベーションの低下」などが挙げられるそうです。
「仕事の停滞」は、ひとりで問題を抱えて延々と悩み、どんどん進捗が遅れていくこと。「事態の悪化」は、ひとりで悩んでいる間にも刻一刻と事態が悪化していく状況のこと。
もしもそうした状態になりそうなのだとしたら、当然ながら即刻、周囲に協力を求めるべき。
対応が早ければ早いほど影響を最小限にとどめることができるため、スピードを最優先する必要があるわけです。
「モチベーションの低下」は、ひとりで問題を抱え込んで悩んでいる間にモチベーションが下がってしまうことですが、周囲にもそれが伝播して組織全体の士気を下げる恐れがあることが問題。
そのため、自分ひとりの問題として捉えるのではなく、組織への影響も考慮し、問題について早めに相談したほうがいいということです。
組織レベルのデメリット
なお組織レベルの影響に関しては、「状況の不可視化」「関連プロセスへの悪影響」「部署・チームの機能不全」「顧客からの信頼の毀損」などが考えられます。
「状況の不可視化」とは、組織全体を俯瞰した際、どこで問題が発生しているのかわからず、状況を正確に把握できなくなってしまうということ。
そうした場合、問題が顕在化したころには手の施しようがなくなっていたという事態にもつながりかねないわけです。
次に、「関連プロセスへの影響」。
個人の仕事のアウトプットが他の人の仕事のインプットになっている場合には、個人の仕事の停滞や品質などの問題が、関連するプロセスへと波及してしまうということです。
そして「部署・チームの機能不全」。
部署やチームの機能とは、「所属する人たちが最大限の成果を出すためお互いに協力し合うこと」なので、個人が抱えている問題を明らかにしないと、周囲との協力関係が成立せず、部署やチームが本来の機能を果たせなくなってしまうのです。
「顧客からの信頼の毀損」は、最終的に顧客に迷惑をかけてしまうという問題。
ひとりでも自分の問題を抱え込んで周囲に相談できない人がいたら、仕事が停滞したり必要な品質基準を満たせなかったりして、顧客からの信頼を失う可能性があるわけです。
これらを鑑みても、ひとりで抱え込むのは百害あって一利なし。(124ページより)
完璧主義は非効率の元凶
・任された仕事は、自分が完璧だと納得できるまで誰にも見せない
・制限時間いっぱいまで粘って仕上げている。時間が足りなければ残業も厭わない
・手間をかければかけるだけよいものができると信じている
(128ページより)
いずれかに該当する人は、完璧主義の傾向があるそう。
仕事の質を上げること自体は賞賛されるべきであるとはいえ、完璧主義については手放しでお勧めできないというのです。
なぜなら完璧主義の人は、自分が完全に納得できないと仕事を完了させられないから。
しかし、それでは「修正やフォローをするのに十分な時間がとれないまま期日を迎えてしまう」というようなことになりかねないわけです。
だからこそ、自分の納得がいくまで細部にこだわりすぎてはいけないのだと著者。それは、十分な価値を生むこととはまったくの別物。
むしろ大切なのは、相手にとって価値があるかどうかについて真剣に向き合うことだといいます。
完璧主義に囚われない効率的な仕事の進め方
では、完璧主義にとらわれず、効率的に仕事を進めるにはどうしたらいいのでしょうか?
まずは作業に取り掛かる前に、完成イメージを手書きなどでラフとして描いて上司に見せます。
ここで問題なければ後々になって壊滅的な手戻りが発生することは防げます。そして一旦、時間をかけずに資料を一通り作ってしまいます。
この時点では詳細まで作りこまず、デザインも凝る必要はありません。
そのうえで上司に確認してもらいますが、仮に修正が入っても、そもそもあまり時間をかけていないので最小限の手戻りで済みます。
そしてようやく詳細を作り込みます。
その際、最低限押さえておくべきポイントは何かを意識して、そこに注力します。絶対に期限まで粘らずに、できるだけ早めに上司に見せましょう。(130〜131ページより)
ボリュームが多い場合は、作業の途中であってもキリのよいところで見せることも大切。
いずれにしてもこのように完璧主義を回避し、仕事の効率を上げるべきだということです。(128ページより)
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各章の内容は目的ごとに独立しているので、自分にとって興味のある部分や、直面している問題に関する箇所から読むことも可能。つまり、極めて実践的な内容だということです。
そして、ピンとくる箇所が見つかったら、ぜひ実行してみるべき。そうすれば、リモートワークのストレスを解消できるかもしれません。
Source: 明日香出版社
Photo: 印南敦史