『妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話。』
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著者の無知や落ち度も記されている生々しい記録
[レビュアー] 中江有里(女優・作家)
カフェでお茶を飲んでいたら、隣にいる男女の声が耳に入ってきた。
男性が女性を説得するその内容から「マルチ商法」を疑ったが、他人の自分は口を出せない。本書を読みながら、あの時の女性はどうしてるのだろう、と思った。
本書はタイトル通り、マルチ商法に入れ込んだ妻が娘を連れて家を出たという夫の実体験。マルチ商法とは「特定商取引法」で「連鎖販売取引」と定義されている商形態の俗称。個人Aが販売員としてBを勧誘し、次はBが販売員となって、Cを勧誘する。販売組織を連鎖的に拡大して行うビジネス。そうやって得たグループの収入のうち、一部をマージンとして受け取る。日用品や投資目的の商材などを売るところが「ねずみ講」とは違う点。
第三者ではなく、妻に出ていかれた当事者視点で進むので、妻の表情の変化などの描写は少々過剰にも思えるが、著者自身のマルチ商法に対する無知や落ち度もそのまま記されるところが生々しい。
マルチ商法の問題点は(特定の条件を満たせば)合法であることだ。訴えるところがなく悩んだ著者は自身の経験をSNSに書き込む。すると同じような立場にある人々から同情と共感の声が集まってくる。
本書後半は、家族や友人がマルチ商法にハマって、人間関係が壊れてしまった人々への聞き取りが中心。
中にこんな記述がある。
「みんな多かれ少なかれ騙す騙されるということを経験しているだろう」。騙す者が悪いはずなのに、都合のいい論理にすり替えられ、騙される方が悪いとなる。情報弱者だから? 気が弱いから? 結果、騙した者が得をする世界なんて、まるでディストピアだ。
マルチ商法に手を出し、家族や友達を勧誘して縁を切られた人々も「被害者」ではないだろうか。個人だけで解決できない「社会問題」として捉える必要があるだろう。