『孤独のキネマ』
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著者の新聞記者魂が炸裂 映画評で安倍や菅をぶった斬る
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
書評を読んで本を買う。ではあなたは映画評を読んで映画を観ますか。ともあれ、ユニークな映画評の本が出ました。監督、キャスト、ストーリー等の必要な情報は入っていますが、ユニークなのは、著者の主観や政治的信条が多く書き込まれるところで、安倍さんや菅さんが斬られたりするのです。
著者は日刊ゲンダイの通称モリケンなる記者で、その夕刊紙に2013年11月から20年6月まで書いた286本の映画評から108本を選び、それぞれを大幅に加筆しています。
加筆部分は本文下の「蛇足ながら」と「ネタバレ注意!」で、これらは文字が小さく、著者は「ハズキルーペをかけて読んでほしい」とサービス精神を発揮します。
108本は、「あの事件の真相は」「男と女、哀しき情念」「バイオレンス&スペクタクル」「世の中は不条理だ」「青春のほろ苦さ」「人間、この愚かな生き物」「戦争の悲劇」と区分され、古今の名作が一目瞭然です。
そのあちこちに新聞記者魂が炸裂しているわけですが、『ロッキー』を例に取りましょう。ご存知シルベスター・スタローンの出世作で製作は1976年、そして著者はその映画評を18年8月15日に「ボクシング連盟はこの男に学べ!」とのタイトルで発表しているのです。
18年の流行語大賞にノミネートされた「奈良判定」。アマチュアボクシング界に君臨した山根明氏をめぐる一連の騒動に、著者は『ロッキー』をあらためて観ることを思いつき、その色褪せない素晴らしさとともに、製作から40年以上経過していることに言及します。前述の「蛇足ながら」では、『レイジングブル』『シンデレラマン』、邦画の『ウェルター』や『どついたるねん』を紹介し、関連作品にも目が向く仕掛けを施しているのです。
コロナ禍でなかなか映画館に足が向きませんが、本書はその憂さ晴らしにうってつけです。