ルポ入管 平野雄吾著 ちくま新書
[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)
2019年、全国の入管施設で、被収容者によるハンガーストライキが広がりました。長期収容への抗議を示すものでした。このハンストでナイジェリア人男性が死亡しました。
報道を聞いて驚きました。現代の日本で、刑務所でもないのに長期収容されている人々がいるとは。そもそも、入管って何だっけ。それまで無関心だったことを恥じました。
入管、つまり出入国在留管理庁と、その下部組織の施設で何が行われているのか、本書でその全体的なイメージが分かります。著者は、被収容者を含む当事者への綿密な取材を通じて、入管の諸問題を明らかにしていきます。
外国人の非正規滞在は、簡単には結論を出しにくい問題です。速やかに送還すればいい、というのは筋論ですが、送還先の本国で迫害されるおそれはないのか。すでに日本社会に定着し、平和に暮らしている事情を勘案しなくていいのか。考えていると心が重くなります。
思わず目を覆いたくなるのは、施設での人権侵害の実態です。被収容者の男性が急な腹痛を訴えたのに、別室に移されただけだった。20時間以上激痛をこらえ、ようやく診察を受けると、重症の虫垂炎だった――。ある施設のデータでは、被収容者が申し出てから受診まで、なんと平均14・4日もかかるそうです。
罪のない子どもが犠牲になるのもつらい。幼い時に親とともに日本に来た子、または日本で生まれた子は、日本人の子どもと同じく学校に通い、日本社会の中で成長します。ところが、入管当局の方針によって、ある日突然、在留資格を打ち切られる。卒業後の将来が描けなくなってしまう。本人のせいではないのに。
当事者がかわいそうだ、胸が痛む、というだけでは、問題が解決しないのは分かります。でも、まず必要なのは、当事者の人権と人生を尊重する気持ちでしょう。本書は、議論の上で忘れてはならないことを示してくれました。