特務 スペシャル・デューティー リチャード・J・サミュエルズ著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

特務(スペシャル・デューティー)

『特務(スペシャル・デューティー)』

著者
リチャード・J・サミュエルズ [著]/小谷 賢 [訳]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版本部
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784532176860
発売日
2020/12/22
価格
3,300円(税込)

書籍情報:openBD

特務 スペシャル・デューティー リチャード・J・サミュエルズ著

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

 スパイを意味する「特務」という言葉は、戦中の「特務機関」を連想するからであろうか、ネガティブな響きが残る。本書は戦前の時期も扱っているが、主として戦後における日本のインテリジェンス史を膨大な公開資料とインタビュー調査を駆使して、克明にひもといた学術書である。論理明快な力作だ。著者のサミュエルズ氏は、アメリカにおける日本の政治・安全保障研究の第一人者である。

 インテリジェンスの要素には収集、分析、伝達、保全、秘密工作、監視があるが、本書ではこれらの展開と課題を19世紀末から現在に至るまで丁寧に跡付けている。戦前のインテリジェンスは特に軍事的必要性から急速に発展したが、軍部がそれらの機能を独占することで、外務省などの他機関は抑え込まれた。

 戦後になると軍事系統は解体されたが、冷戦の中でインテリジェンスの重要性は再認識され、内閣官房、警察庁、公安調査庁、外務省、自衛隊などでそうした機能が再建された。冷戦後は安全保障環境の複雑化とアメリカの地位の相対的低下により、その重要性が増した。そして近年に至り国家安全保障会議と国家安全保障局が創設され、各官庁に存在した情報機関が集約されつつある。

 著者は日本のインテリジェンスを世界水準の中で相対的に吟味している。その上で日本に特徴的な問題点として、極端な縦割り行政の悪弊が歴史的になかなか改善されないこと、戦後はアメリカ頼みであって自律性に乏しいことを指摘している。耳の痛い話だが、極めて重要だ。

 日本におけるインテリジェンス議論は、かつては「戦前への回帰」という軍国主義トラウマからの批判がほとんどであった。しかし、近年日本の社会はそこから脱して、より現実的に「民主主義的規範の健全性の維持といった普遍的な内容へと変化」しつつあると著者は言う。長年日本を真摯(しんし)に見つめてきた著者の眼力を感じさせる分析だ。小谷賢訳。

 ◇Richard J. Samuels=米国・マサチューセッツ工科大教授。日米友好基金理事長も務めた。

読売新聞
2021年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加