『猫がこなくなった』
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『猫がこなくなった』保坂和志著
[レビュアー] 産経新聞社
元気だった猫がある日、ふっつり自分の庭に来なくなった-。いなくなった猫のことを涙ながらに話し始める近所の高平君。その話を聞けば聞くほど、「私」は自分が外で世話していた猫のキャシーに似ていると思う。忘れがたい猫の姿が、世界の不思議な手触りを呼び起こす表題作をはじめ、ささやかな命の輝きへの思いをつづる「夜明けまでの夜」など9つの短編からなる小説集。
印象深い書物。時と記憶。生と死…。自由な語り口でつづられた収録作に触れるうち、凝り固まった思考は心地良く解きほぐされ、この世界のいとおしさが眼前に立ち上がる。(文芸春秋・1700円+税)