直木賞作家、翻訳家の著者による自伝的連作短編集。1950~60年代に翻訳者を目指す主人公と個性的な先輩や仲間、恋人(のち妻)との日々を描く。
主人公が探偵小説を好きなのは「世の中からあぶれたような探偵たちに親近感」をおぼえるからだが、著者は当時の翻訳者たちにも「世間の片隅で暮していたよう」と述懐する。約30年前の単行本の文庫化で、後日談ともいえるエッセー2編を収録。どこか懐かしい文章が胸にしみる。
登場する翻訳者のモデルを「推理できるゲーム的な楽しさ」もあると翻訳家、青山南氏の解説も楽しい。(中公文庫・860円+税)
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2021年1月31日 掲載
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