附属法など憲法体系を変えることで進められてきた「憲法改革」

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附属法など憲法体系を変えることで進められてきた「憲法改革」

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

「護憲か、改憲か」というイデオロギー的な対立が半世紀以上も続いてきた。その一方で、社会の変化に合わせた「憲法改革」は着実に進められてきた……と聞いて「えっ?」と思ったら(評者がそうでした)、ぜひ読んでほしい。

〈すでに状況が変わってきていると思うのですが、憲法改正の議論に関わっている皆さんの意識はそこまで至っていないのではないか〉。そう記す著者は、2018年に「改憲4項目」の条文イメージを発表した自民党憲法改正推進本部で事務総長を務めた衆院議員。

 日本国憲法の特徴の一つは「規律密度」が低いこと。英訳の単語数でみるとドイツ2万7379、フランス1万180、米国7762、対して日本は4998。規定の少なさを、皇室典範、国会法、公職選挙法、裁判所法などの憲法を支える諸法律や憲法判例で補っている。〈憲法典があって憲法附属法があって、そのルールの体系が実質的な意味での憲法〉というのが本書の視座。

 諸外国では憲法改正が必要になるような大規模な政治改革や行政改革も、日本では憲法典そのものを変えることなく、附属法など憲法体系の手直しによって実現してきた。その実情をわかりやすく説明する。

 問題は「これからもそれでいい」のかどうか。自民党が自衛隊、緊急事態、合区、教育充実の4項目を提示したのは「建設的な議論のきっかけ」にするためだった。その後、コロナ禍や政権交代などもあって憲法論議は一休みといった感じ。しかし、当事者による詳細な報告書は、今後議論を重ねていくための貴重な礎となるだろう。

 著者と3人の憲法学者による対談が面白い。一人は、欧州諸国で環境原則や同性婚の可否で改憲した例を挙げて言う。〈改正によって権利を実現したり、社会を変えるという感覚がないのが日本の憲法論議〉。まず変えるべきは私たちの感覚かも。

新潮社 週刊新潮
2021年2月11日特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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