『愛と性と存在のはなし』
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性の多様性に思考停止の穴
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
性の多様性は徐々に認知されつつある。でも、「性的マイノリティの存在を認めよう」という言葉は、大事なことを置き去りにしてしまう。「自分は多数派に属しているんだな」と安心した人は、考えることを止めてしまうからだ。「自分とは違う人たちがいる」ということだけ知っても、粗雑なグループ分けが対立を生むだけだ。
赤坂真理の『愛と性と存在のはなし』は、そうした思考停止の壁を突破する力強い試みだ。著者は言う、マジョリティとは「自分はマジョリティだ」と安心したい人のことであると。自分とは違う体の構造や感覚を想像できず、想像する気もない。つまり、相手が同性愛者か異性愛者かは関係なく、すべての他者を理解しようとしない。マジョリティがマイノリティを差別するのも、異性を差別するのも、根っこのところは同じだ。ほかの誰でもない「あなた」を知る気がない、ということなのだ。
誰とも似ていない自分の欲望や感覚を知り、相手に伝え、相手のそれも知ろうとする。性愛はそれがすべてであり、そこでは本来、誰もがひとりぼっちだ。
自分の肉体の性に違和感がなく、愛する対象が異性であると、なにも学ばなくても「自然に」恋愛や性交がうまくできるかのように思い込まされていることが問題だ。個別の相手を理解する努力、個別の自分を伝える努力を忘れている。だから衝突や摩擦が発生する。この大問題を正面から扱った著者に敬意を表したい。