天下を取るまであと一歩まで迫りながら、失敗した英雄たち。だが彼は倒れたままではいなかった。その生き様を仁木英之が描く!

エッセイ

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我、過てり

『我、過てり』

著者
仁木英之 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758413688
発売日
2020/12/15
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

小特集 仁木英之『我、過てり』刊行記念エッセイ

[レビュアー] 仁木英之(小説家)

人は生まれた瞬間から失敗をする。大人が社会を成り立たせるためにつくり上げた枠の中に無垢な存在を嵌め込むわけだから、最初は何をしても失敗ということになる。やがて枠の中に自分を合わせられるようになり、それを褒められ尽くすと、今度はより大きな成果を出すようにその枠を超えることを求められる。あるいは枠の中で身を縮めていくことを求められるかもしれない。

過不足のないこと、過剰であること、逆に一歩引くこと、その判断を誤ると痛い目に遭う。過ぎたるは猶及ばざるが如しと教訓を垂れられても、及ばざれば猶努力が足らぬと鞭打たれるのが憂き世の常。つろうございますな。

そりゃ会社の会議で吊るし上げを喰らうこともありましょう。私のようなフリーランスはしくじれば叱責を受けることもなく、何となく仕事がなくなって消えていく。過ちはその時か直後に気付けばいいが、大抵は時が経ってから気付くもの。

それでも、それでもですよ。まだ現代日本では一度の過ちで命まで奪われることは、まずない。命以外の全てを失うことは……立場や状況によってはあるかもしれないけれど、そうそうないこと。

ではあの戦国時代はどうか。決断を誤れば、決断の踏み込みが甘ければ、それが即ち一生の過ちとなって己一人の命どころか味方や家中の多くを殺してしまう。戦国大名、大名までいかずとも記録の残っている武将たちで、ここぞという時にしくじって全てを失ったり危機に陥った者は多くいる。

他人の失敗はいつだって最高の娯楽であり、教材だ。戦国の世はあらゆる極限状態が記録に残った時期で、人は状況が極まっているほど豪快にやってしまう。そのしくじりようは実に劇的で時に愚かしく見える。後世の我々がハハハたわけものめと嗤うのは簡単ではあるがあまりにもったいない。せっかくなら本書でがっつり追体験してもらいたいのだ。だってその失敗の種を皆が持っているのだから。

 ***

仁木英之(にき・ひでゆき)
1973年、大阪府生まれ。信州大学人文学部に入学後、北京に留学。2年間を海外で過ごす。2006年『夕陽の梨―五代英雄伝』で「歴史群像大賞」最優秀賞を、また同年『僕僕先生』で「日本ファンタジーノベル大賞」大賞を受賞しデビュー、シリーズはベストセラーに。他の著書に、「千里伝」、「くるすの残光」、「黄泉坂」各シリーズ、『大坂将星伝』などがある。弱者や敗者に優しい眼差しを当て、掬い取る作風に定評を持つ。

角川春樹事務所 ランティエ
2021年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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