縁食論 藤原辰史著

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縁食論

『縁食論』

著者
藤原辰史 [著]
出版社
ミシマ社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784909394439
発売日
2020/11/20
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

縁食論 藤原辰史著

[レビュアー] 読売新聞

新しい食のかたち

 「縁食(えんしょく)」、聞き慣れない言葉である。それもそのはず、著者・藤原辰史の造語である。独りでの「孤食」と、親しい人たちとの「共食」の中間に位置するのが縁食だ。そのイメージを抱くには、「子ども食堂」を思い浮かべるのが手っ取り早い。

 貧しい家庭の不特定な子たちに食を供するだけでなく、地域の交流など他の目的もある。そういった弱目的性――これも藤原の造語――と解放性を持った食の形態が縁食である。それは「ほどほどの人間的つながりを醸成しやすい食のかたち」であり、「力みの取れた艶やかさ」があるとする。なんだかとても素敵だ。

 縁食の「かたち」「ながめ」「にぎわい」から「人文学」まで、さまざまな論が展開されていく。その舞台は子ども食堂に始まり、釜ヶ崎の炊き出し、アテネのアゴラ、インドのシク教総本山、東京大空襲、アウシュビッツなど縦横無尽である。

 たとえば「世の中に存在するすべての食べものが商品という着物を脱ぎ捨てる」といった思考実験がユニークだ。食費が不要な世界には五つの大きな問題点があると指摘しつつ、解決は可能だと論破する。さらに、もしそのような世の中に進むならば、まずは「『縁』で食を回す実験的空間」が適しているはずだと畳みかけてくる。

 「無料食堂試論」も面白い。シク教総本山のように毎日無料で10万食を供するような食堂が7万カ所あれば、世界中の人が一日一食はただで食事にありつける。これも、決して不可能なことではないと喝破する。

 こういった議論から、「縁食の完成型」は「激しく商品化され、オートメーション化され、硬直した所有権観念に侵犯されている」現在の「食」の状況を解き放った先にあると結論づける。かくも壮大なる縁食の思想。

 小さい頃の縁側での食事風景が縁食と名付けた理由の一つ。人が出入りし、内と外をつなぐ「居心地のよい空間」である縁。そこに腰掛けた気分でこの本を読み、食べることの意味をゆっくりと噛(か)みしめてほしい。

 ◇ふじはら・たつし=1976年生まれ。京都大准教授。著書に『ナチスのキッチン』『分解の哲学』など。

読売新聞
2021年1月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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