証言 天安門事件を目撃した日本人たち 六四回顧録編集委員会編

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証言 天安門事件を目撃した日本人たち

『証言 天安門事件を目撃した日本人たち』

著者
六四回顧録編集委員会 [編集]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784623089925
発売日
2020/11/02
価格
3,520円(税込)

書籍情報:openBD

証言 天安門事件を目撃した日本人たち 六四回顧録編集委員会編

[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

 コロナ禍前の2019年、海外に3か月以上滞在する日本人は約89万人、永住者を合わせると141万人を超えた。ここに毎年1800万人近くの旅行者を加えると海外には相当数の日本人がいることになる。

 多くはビジネスや留学、観光を目的としているので、危険と隣り合わせではない。しかし、平和な国でも突然、軍隊が出動するような大騒乱が起こる確率はゼロではない。もし、そんな世界史的な大事件に巻き込まれたらどうしたらいいのか? 本書は、そんな時に役立つ必携の本だ。

 今から32年前の1989年6月4日、北京のど真ん中で民主化を求める学生たちを人民解放軍が武力で鎮圧した天安門事件が起きた。当時の北京には改革開放政策の波に乗って多くのビジネスマンが駐在していた。これに、文化交流で訪中していた水上勉ら著名人から、国際会議に参加していた医師、演劇を学ぶ留学生まで含めると実に多彩な人びとが滞在し、世界史的大事件の目撃者となった。

 本書には大使館やマスコミ関係者にとどまらず、民間人にいたる貴重な証言が寄せられ、これらをつなぎ合わせると天安門事件が立体的に浮かび上がってくる。

 騒乱の表通りと日常生活そのままだった裏通りとのコントラスト、そして予定通り行われた講義を証言する医師、手に入らないはずのガソリンで作った火炎瓶の多さと簡単に焼け落ちた軍用車の不自然さを指摘する自動車メーカー所長、民間ならではの視点は実に興味深い。そして、綿密な社員避難計画を立てて実行に移す商社総代表、規則に忠実なJALに比して疑似航空券を発券して外国人も搭乗させたANA、緊迫感のなか個人の責任感と判断力が問われる証言が続く。

 民間の緊張感に比べて日本大使館は危機感が薄い。大使館出向の警察官僚が、真の緊急事態では「国民は自己責任で自分の安全を守らなければならない」と語った言葉は重い。

 ◇編集委員会メンバーは、濱本良一・元読売新聞中国総局長、信太謙三・元時事通信社北京支局長ら。

読売新聞
2021年1月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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