戦争は女の顔をしていない 1・2 小梅けいと作画、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ原作 KADOKAWA

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戦争は女の顔をしていない 1

『戦争は女の顔をしていない 1』

著者
小梅 けいと [著]/スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ [著]/速水 螺旋人 [監修]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784049129823
発売日
2020/01/27
価格
1,100円(税込)

書籍情報:openBD

戦争は女の顔をしていない 2

『戦争は女の顔をしていない 2』

著者
小梅 けいと [著]/スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ [著]/速水 螺旋人 [監修]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784049135954
発売日
2020/12/26
価格
1,100円(税込)

書籍情報:openBD

戦争は女の顔をしていない 1・2 小梅けいと作画、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ原作 KADOKAWA

[レビュアー] 長田育恵(劇作家)

 この漫画からは音が聞こえなかった。もちろん戦場が舞台だから戦車も銃撃も描き込まれている。けれど聞こえないのだ、肉声以外は。

 本作はノーベル文学賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによる同名原作を漫画にしたものだ。第二次大戦下、ソ連では15歳以上の有志の少女たちも従軍した。特筆は衛生兵ではなく前線で戦う兵士にもなったこと。狙撃兵となり75人撃った少女もいる。だが終戦後、帰郷した彼女たちは、待っていた女たちから白い目で見られた。身内でさえ従軍の事実はひた隠しにした、妹たちの縁談に障りがあるから。戦下の殺人は、男たちにとっては手柄となったが、女のそれは罪業となる。彼女たちは、戦地で受けた勲章も心の傷もひた隠しにして、日常しか知らない娘に戻ろうと必死で努めた。

 封印された記憶は、しかるべき時と聞き手を得て初めて引き出される。戦後およそ40年、若きアレクシエーヴィチは500人以上に聞き取りを行った。怯(おび)える心に寄り添いながら、彼女たちの魂の声に注意深く耳を澄ませた。

 この漫画からは、そんな原作者の意図を継ぐ意志を感じる。原作を恣意(しい)的に利用するのではなく、ただ「伝える」ことに注力する。私は漫画化の真骨頂は呼吸にあると思う。コマとコマのあいだに生じる物理的な「間」。それは訥々(とつとつ)と打ち明けられる臨場そのもの。私たちは漫画という形式を通して「語りの場」に立ち会う。

 優しい絵柄は、戦場で命がけで生き抜こうとしながら、まだ自分が何者かも知らない、彼女たちの柔らかな横顔を描き出す。お下げ髪をなびかせて、友達と戦地行き馬車に乗る。合切袋をほどいて作ったスカートでくるりと回り、持参した母のブラウスを抱きしめる。唯一の聞き手によって書き留められた記憶が、今この日本で作者を得て、漫画化された。彼女たちの記憶を、まずは手のひらで包むように、味わってみてもらいたい。

読売新聞
2021年1月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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