つきあう男を次々殺す妹 その姉の奮闘と葛藤と諦念

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つきあう男を次々殺す妹 その姉の奮闘と葛藤と諦念

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

〈ねえコレデ、殺しちゃった。と言ってアヨオラはわたしを呼び出す。/そんなセリフ、二度と聞きたくなかったのに〉。コレデとはナイジェリアの大都市ラゴスの病院で看護師をしている女性〈わたし〉で、アヨオラとはその美しい妹のこと。オインカン・ブレイスウェイトの『マイ・シスター、シリアルキラー』は、つきあっている男を次々殺してしまう妹を持った姉の奮闘と葛藤と諦念を描いた異様な物語になっている。

 冒頭に挙げた殺人ですでに三件目で、最初は十七歳の時。そのたびに〈わたし〉は妹の代わりに死体の後始末をしてきた。華やかな美貌で虜にした男たちからの貢ぎ物を享受し、すべてが自分の思いどおりになる世界に生きているつもりのアヨオラ。そんな妹を受け入れ、幼い頃からずっと〈あの子が安心して生きていられるようにするのがわたしの責任なのだ〉と思い定めてきた主人公。

 妻や娘たちを暴力で支配する〈あの人〉から妹を守ると、自分で自分を洗脳してきたためなのだけれど、ずっと片思いしてきた医師のタデまでもがアヨオラに夢中になってしまったのをきっかけに、〈わたし〉の気持ちは大きく揺らぐ。これまでの経験上、妹がタデのことを真剣に好きになるはずがない。つきあえば、いずれ殺してしまうかもしれない。そんな葛藤や愚痴を話せるのは、昏睡状態で快復不可能と診断されている患者のムフタールだけ。ところが、ある日、そのムフタールが目を醒まし、話を覚えていると告げ――。

〈あいつか、わたしかだよ、コレデ〉と迫るアヨオラ。〈あの子にはいつもわたしがいて、わたしにはいつもあの子がいる。ほかの人などどうだっていい〉と思う主人公。父親の虐待によって培われてしまった姉妹の歪んだ共依存関係を、短いシークエンスを連ねる語りで描いて不気味な一方で、あっさり成される殺人をめぐるあれこれには笑いも伴う。ユニークな声を持った作家といえそうだ。

新潮社 週刊新潮
2021年2月18日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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