ある舞台芸術集団の活動内容を目撃した人々の証言で描く

レビュー

4
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したてやのサーカス

『したてやのサーカス』

著者
高松夕佳 [編]/曽我大穂 [監修]
出版社
夕書房
ISBN
9784909179067
発売日
2020/12/02
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

ある舞台芸術集団の活動内容を目撃した人々の証言で描く

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 近所にある茶道の稽古場で寒空の下、畳の張り替えをしていた。今やほとんど見ることがない職人の技に思わず見とれた。鍛練された体が身についた動きをするとき、何にも代えがたいエネルギーを放つ。

 本書は「仕立て屋のサーカス」という舞台芸術集団の活動内容や軌跡について、発案者で音楽家の曽我大穂、おなじく音を奏でるガンジー、服飾家・スズキタカユキとの対話やインタビュー、舞台を目撃した人々の証言などで構成したものだ。畳の張り替えとはまったく関係ないのに、読みながら前述のシーンがまざまざとよみがえってきたのは、コロナ禍で自閉した環境下にあり、体の動きに飢えていたのかもしれない。

 サーカスの名がついているが、既存のものとはちがう。一言で言い表しにくい芸術表現だが、一度体験した者は、これぞ求めていたものだ! と膝を打つ。まさにそこにこの集団の存在意義があるだろう。一言で言えるものはすでに存在するものの別バージョンだが、発明されたものには明確な名前も形もない。あるのは、こうでありたい、という切実な願いだけなのだ。

 舞台には、音楽を奏でる人がいて、ミシンを踏んで大きな布と格闘する人がいて、そこに照明を当てて道をつける人がいる。人が体感するあらゆる要素が有機的に結びついたその場で、観客は自由に振る舞うことを許される。それは現代の街路から消えてしまった、身体的な空間を取り戻す営みとも言えるだろう。

 リーダーの曽我の「これはひとつの、社会運動です」という言葉にうなずく。人間本来の力が引き出せれば、社会のあり方が変わるという確信がある。それには思いだけが先鋭化しても、緊張感が緩んでもだめで、自己と他者を往復し、自分の今を見極める知性と認識力が欠かせない。未知のウイルスに翻弄され、ライブの場が体験できない今だからこそ、彼らの覚悟に未来があると感じた。

新潮社 週刊新潮
2021年2月18日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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