『戦後民主主義』
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正しく楽しく「戦後」を振り返る
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
その名もズバリ『戦後民主主義』だもの、産経読売の読者は喰わず嫌いし、東京毎日朝日の読者は不見転(みずてん)で飛びつく……なんて先入観は二重三重に大間違い。
まず、書き手の山本昭宏は『核と日本人』『教養としての戦後〈平和論〉』等々の良書を世に問うてきた30代の研究者で、ミギヒダリのブレはないし、ウエシタで分ければ間違いなくウエに属する書き手。新著も、左右一方のみの視座から戦後民主主義をコキおろしたりヨイショしたりの低レベルな政治色は全然ない。
そもそも“三島が唾棄して大江が賞賛する戦後民主主義”的な図式が勘違い。そんな思い込みが固定化するのは平成以降で、かつてはミギに愛されヒダリに憎まれていた時期もあった。それを思い出させてくれるのも、この新書です。
ついでにイイのは、近現代史に加えてメディア文化史も著者の専門であること。昭和20年から令和に至るまでの映画や小説、TVドラマにまで視野を開いて、そこに描かれた戦後民主主義(観)が掘り出されてくるから、その転変を体感できる。こういう本が教科書なら、現代史だって眠くも胡散臭くもないのになぁ。
戦後民主主義は平和主義、直接的民主主義、平等主義を志向してきた――あらためて著者にそう指摘されると、自衛隊の敵基地攻撃能力が云々され、デモへの参加がダサいと貶され、国内の格差がダダ拡がりしている現在ただいま、ニッポンまたぞろ絶賛敗戦中だねぇ、とつくづく。