誰もが見て見ぬフリ 国民的ヒロインの大願成就を逸した人生

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浅田真央 100の言葉

『浅田真央 100の言葉』

著者
フジテレビスポーツ局 [編集]
出版社
扶桑社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784594086084
発売日
2020/11/30
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

誰もが見て見ぬフリ 国民的ヒロインの大願成就を逸した人生

[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)

 12歳で女子史上初の3回転×3の連続ジャンプを決め、15歳でグランプリファイナル初出場優勝。彗星のごとく現れた天才少女に国民は夢中になり、オリンピック金メダルの期待に胸を弾ませた。

 だが、バンクーバー五輪でライバル、キム・ヨナに敗北。あそこで金メダルが獲れていたら、少女漫画の主人公を地で行くようなスターとして競技人生を終えていたであろうに。血を吐くような練習を続け挑んだ次のソチ五輪では、ショートプログラムでよもやの転倒。翌日のフリーでフィギュア人生の集大成ともいえる演技を見せるが、結果は6位。まさか浅田真央がオリンピックでメダルなしで終わるとは。国民全員茫然。その後段々と見るたび切なくなってしまい、天才少女だった頃のイメージで上書き保存して、今に至る。

 前置きが長くなったが。本書はそんな浅田真央が語った言葉を、発言当時のルポや写真も添えて綴った、30年間のスケート人生を振り返る一冊だ。上書き保存したあの頃が再び。

「自己採点は100点です」と破顔した天真爛漫な少女時代に始まり、「フリーでトリプルアクセルを2回入れたいと思います」「初めてスケートをやめたいなと思いました」「出るからにはやるしかない」「母はいつも近くにいると思っています」「自分で終わってみて、まだ何も……わからないです」「私、浅田真央は、選手生活を終える決断をいたしました」……あー、切なさもフラッシュバック。

 ソチの後、引退するか問われて答えた「まだハーフハーフ」などの懐かしいフレーズも。世界レベルの選手は英語が喋れて当たり前の中、「フィフティ・フィフティ」が出て来ない真央イングリッシュに、「スケートを取ったらただの女のコ」という、彼女のフレーバーが蘇る。

 今回初めて寄せられた父からのコメント「現役の頃は修行僧のようでした」。引退会見での「もしもう一度人生があるなら、スケートの道は行かないと思います」。……あー、切な。我々余人は、グラビアに映る往年の彼女の栄光を目に焼き付け、また上書き保存するのみである。

新潮社 週刊新潮
2021年2月18日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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