<東北の本棚>和洋折衷の背景に迫る

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『陸軍分列行進曲』とふたつの『君が代』

『『陸軍分列行進曲』とふたつの『君が代』』

著者
大山 眞人 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784582859539
発売日
2020/08/17
価格
924円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>和洋折衷の背景に迫る

[レビュアー] 河北新報

 サブタイトルには「出陣学徒は敵性音楽で戦場に送られた」とある。陸上自衛隊の観閲式の行進曲として知られる陸軍分列行進曲。明治時代にフランスの軍事顧問として来日した音楽家シャルル・ルルーが手掛けた二つの曲が基になっている。
 1943年、明治神宮外苑競技場で挙行された出陣学徒壮行式で、この曲は高らかに演奏された。「敵性音楽」と見なされず、作曲者を伏せて演奏され続けた背景を、山形市出身のノンフィクション作家が丁寧に掘り起こし、日本をその後、戦禍の破滅へと導く軍部独裁の世相の一端を伝える。君が代が一度「ボツ」とされ、現在の「2代目」が作られた史実からは、欧化政策下での外交の力関係が垣間見える。
 陸軍分列行進曲について著者は「ルルー自身が作曲・編曲した事実はない」と断言する。ルルーは日本滞在時、陸軍の求めに応じ、西南戦争を題材にした「抜刀隊」を作曲。次いで「扶桑歌」を生み出し、二つの名曲は多くの俗謡に形を変えるなど国民の幅広い人気を博した。
 著者は、数々の専門家の研究を基に、短期間で優れた行進曲を完成させたい陸軍が日本の音楽家に命じて、独断で二つの曲を合体させ、陸軍分列行進曲を完成させたと結論づける。当時「音楽的に見て、陸軍分列行進曲を凌駕(りょうが)する行進曲は皆無といえた」とする著者だが、「日本の曲と胸を張って言えるのか」と疑問を投げかける。
 君が代は薩摩琵琶の名曲「蓬莱(ほうらい)山」の一節に最初、イギリス人音楽家フェントンが曲を付けた。だが日本語の韻律を無視し、言葉が途切れる不思議な曲が出来上がる。こうした事情から、雅楽の要素を取り入れ、ドイツ人音楽家エッケルトが編曲に携わった2代目が誕生した。
 何事にも和洋折衷をよしとする日本人の精神性を再考させられる良書。(浅)

 平凡社03(3230)6580=924円。

河北新報
2021年2月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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