<東北の本棚>詩に刻む過去との対話
[レビュアー] 河北新報
過疎化が進む北国の様相を、北秋田市在住の著者が詩につづった。1951年生まれ。老いゆく自身の内面を投影させたようにも見え、作品に深みを与える。2013~20年、雑誌「詩と思想」などに発表した23編を収めた。
年を重ねると過去に生きる時間が増えるのか。「大館市大町界隈(かいわい)・春先」と題した作品はシャッター通りが広がる商店街に立ち、高度経済成長期のにぎわいを思い起こす。
デパートのエレベーターガールが憧れを集め、高校生だった著者は書店に入り浸った。<商店街は酒が熟成するように廃れて行く>。ふとわれに返ると学生服姿の同級生は消え、人影はまばらだ。
「桜物語」は山里でひっそりと咲く花に着目した。<いずれ思い出す人々さえいなくなるにしても/あくまでも桜は桜のまま>。大都市の花見の騒々しさと比較し、北国の桜に春を見いだす。
本書は2部構成。土地の記憶をたどる前半に対し、後半は現実と幻想、生と死の境界が曖昧になってゆく。<南方戦線に送られた若い頃の父>が玄関先に立つ「ある帰還」など戦争の傷跡も交え、過去との対話を詩に刻んだ。
著者は詩誌「komayumi」同人。13年に詩集「消息」で秋田県現代詩人賞を受賞した。(和)
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書肆えん018(863)2681=1980円。