TIMELESS 石岡瑛子とその時代 河尻亨一著 朝日新聞出版/石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか 東京都現代美術館監修 小学館

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石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか

『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』

著者
小学館 [著]
出版社
小学館
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784096823422
発売日
2021/01/28
価格
3,500円(税込)

書籍情報:openBD

TIMELESS 石岡瑛子とその時代

『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』

著者
河尻亨一 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784022517340
発売日
2020/11/20
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

TIMELESS 石岡瑛子とその時代 河尻亨一著 朝日新聞出版/石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか 東京都現代美術館監修 小学館

[レビュアー] 尾崎真理子(早稲田大学教授/読売新聞調査研究本部客員研究員)

 初の大回顧展が東京都現代美術館で開催中の石岡瑛子(1938~2012年)。半世紀に及ぶアートディレクション、デザインは、図録『石岡瑛子――』にある通り、より生々しく、人体と命そのものの表現へと突き進んだ。

 映画『ドラキュラ』の衣装でアカデミー賞、グラミー賞もカンヌ映画祭芸術貢献賞も獲得し、北京五輪開会式の衣装も手がけた。コッポラ監督、マイルス・デイビスも出来栄えに魅了されるが、国内では1970年代に手がけた躍動的なパルコのポスターの残影が、今なお強いかもしれない。

 石岡は自らの成果を『私デザイン』(2005年)などに雄弁に書き残している。しかし、彼女の仕事はどこまで「私」の創造で、どこからが仲間との協働であったのか? 晩年に取材した河尻亨一氏による評伝『TIMELESS』は、さまざまな現場に残る証言を総動員し、彼女の武装を解(ほど)いていく。

 図案家だった父、東京芸大、資生堂の伝統に培われた土台。20代で出会った杉山登志、横須賀功光(のりあき)はじめ、大手代理店が支配的になる以前の広告界の破格の英雄ら。時を超える独創、時代を攪拌(かくはん)するほど革命的であることを旨としてアイデアを制限時間いっぱい煮詰める一方で、発注を受けて「私」を捧(ささ)げる仕事しか、石岡は選ぼうとしなかった。ただ、ナチスに協力したレニ・リーフェンシュタールには、独自の取材を四半世紀も続けた側面は興味深い。

 「女の時代」と消費社会を先導し、ガラスの天井を突破した彼女は70歳を前に語っている。

 <いつも崖っぷちにつま先で立ってる(中略)クリエイティビティの本質はそういうことの中にありますから>

 芸術と宣伝、自然と人工、東洋と西洋、男と女。断裂の峡谷に宙づりになってもがき続けた。それを生の必須エネルギーとした彼女と時代の苛烈が、痛々しいほど両書からよみがえる。

読売新聞
2021年2月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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