「共食」の社会史 原田信男著 藤原書店

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「共食」の社会史

『「共食」の社会史』

著者
原田 信男 [著]
出版社
藤原書店
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784865782974
発売日
2020/12/24
価格
3,960円(税込)

書籍情報:openBD

「共食」の社会史 原田信男著 藤原書店

[レビュアー] 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

 共食(きょうしょく)とは、同時に同じ場で同じものを食べることで、仲間の絆を確認する行為をいう。食文化研究で名高い著者が、共食からみた社会関係の通史を展望した本書は、研究を集大成した渾身(こんしん)の仕事といえる。

 まず、人間のみが料理を作り共食する動物であるという石毛直道説を紹介する。共食の宗教的基層には、神祭りの神饌(しんせん)料理を直会(なおらい)で食べる神人共食や、盂蘭盆会(うらぼんえ)での祖霊との共食がある。中世の集団誓約儀礼として神水を共飲する「一味神水(いちみしんすい)」もある。また労働の節目には、農耕の予祝や収穫の祭りに共食が行われた。古代中世には、こうした村の共食の場で法令が告知されたという。

 古代には、大嘗祭(だいじょうさい)で天皇が神と共食するとともに、直会で臣下と共食して官人秩序が確認された。平安時代には、大臣も大臣大饗(だいきょう)の共食で太政官の官人秩序を確認した。

 古代に地方官が赴任する際に在地が行った三日厨(みっかくりや)という共食の饗応は、中世後期になると饗宴費用を一献料(いっこんりょう)として在地が提供した。

 中世には鎌倉将軍が主従制を確認する共食として、公家を模した武家の共食儀礼である「●飯(おうばん)」が成立する。室町将軍の権威を誇示する御成(おなり)での豪勢な本膳料理は、のち和食の料理体系となっていく。(●は、つちへんに「完」)

 近世に幕府が安定化すると、倹約のため本膳料理は簡略な袱紗(ふくさ)料理にかわり、茶の湯とともに和食をきわめた懐石料理が発達して、近世後期に料理屋の会席料理となる。

 近世社会では、料理屋が発達し、料理本が出版され、発酵調味料が大量生産され、食文化が商業化して和食が庶民にまで広まった。

 近代になると、共同体が崩れて都市化が進み、飲食店が増え孤(個)食や外食が出現する。さらに外食産業が発展し共食は変容しつつある。

 史料や先行研究を幅広くふまえた共食の重要性の指摘は、説得力に富む。しかし、会食を慎まなくてはならないコロナ禍の時代、これからの共食はどうなっていくのだろうか。

 

読売新聞
2021年2月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加