『極主夫道』と『孤狼の血』の作者が明かす 「極道」をテーマに作品を描いた理由

対談・鼎談

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極主夫道 1

『極主夫道 1』

著者
おおの こうすけ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784107721044
発売日
2018/08/09
価格
660円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

孤狼の血

『孤狼の血』

著者
柚月裕子 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041049549
発売日
2017/08/25
価格
836円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

柚月裕子×おおのこうすけ 極道ってこんなに面白い!

[文] 新潮社

描き続けるために

柚月 おおのさんは、漫画を描いていて、漫画を描くことは楽しいなって思われることありますか。

おおの もちろん。一番楽しいのも好きなのも漫画ですね。ちょっとうまく言えないんですが、漫画が上手に描けたな、うまく表現できたなと思えた時が、自分の中での快感指数が一番高くなると思います。

柚月 私も同じです。書くこと自体はけっこう辛くて、煮詰まるとすぐに「ああ、もう無理」って思うんですけどね(笑)。でも、自分の中にある感情をどう表現したらいいかなと考えて、ぴたっと合うものを見つけたときは、ものすごく嬉しいです。

おおの そうですよね。柚月さんは、内面の描写とアクションシーンだとどちらを書くのがお得意ですか?

柚月 難しいのは内面描写です。私の場合、右手で殴って殴られたほうがこう倒れて……みたいな、映像で浮かぶシーンを書くのはそんなに苦ではないんです。もちろん、そういうシーンは長々と書いても冗長になるだけなので、いかに短く、端的に印象的な場面にするかという難しさはありますが、やっぱり登場人物の内面描写が一番難しいですね。キャラクターという、いわば人間をつくる工程ですから。一日とか二日、煮詰まって進まないこともあります。おおのさんが一番難しいと思われる部分はどこですか?

おおの そうですね。漫画の場合はネームという絵コンテや、設計図のようなものを描くところから始まるんですが、そこがまず、精神的にハードな感じですね。その後の原稿のほうは、肉体的に疲れるという感じです。どちらの方が大変かと聞かれるとちょっと比べにくいのですが……。

柚月 小説よりも工程が多い分、手はもちろん、頭の使う部分も違って大変そうですね。そうそう、ドラマ『極主夫道』もとても楽しく拝見していました。おおのさんは自分が描いたマンガの延長線上にあるものとしてドラマをご覧になりましたか? それとも別でしょうか。

おおの そうですね。ドラマには原作にはないキャラクターもいたりしたので、けっこう別物としてとらえているところもあります。柚月さんは、映画『孤狼の血』はどのようにご覧になられたんですか?

柚月 昔から、いち視聴者や読者として、映像作品と原作は全く別の面白さがあるものだなと思いながら見ていました。なので『孤狼の血』の映画についてもその意識で見ました。自分の作品をお嫁に出したような感覚です。特に『孤狼の血』の白石監督は実績のある方でしたので、安心して預けられました。二〇二一年に『孤狼の血II(仮)』という映画が公開予定なんです。

おおの そうなんですよね! 楽しみにしています。『孤狼の血II(仮)』の原作はシリーズ続編の『凶犬の眼』(KADOKAWA)なんですか?

柚月 いいえ、実は全くのオリジナルストーリーなんです。なのでそれもまた楽しみです。どんな物語になるのかしらとワクワクしています。『極主夫道』はドラマを放映したばかりですが、春にアニメにもなるんですよね。

おおの そうなんです。立て続けで嬉しい限りですが、ちょっとびっくりもしています。

柚月 それは、作品の力が認められたということですよね。ほかの作品も同じように力を入れて作っていても、なぜか一つの作品だけが大きく動いたりします。作者である私というよりは、作品自体が持ってる力みたいなものがあるんじゃないかなと思うことがありますね。おおのさんは連載を始めた当時、『極主夫道』がここまで大ヒットになるとは思ってらっしゃいましたか?

おおの いえいえ、もう全く予想外です。僕が連載している「くらげバンチ」は、新連載はほとんど短期集中連載というかたちをとっていて、まずは四話か五話かだけの連載が決まっている。人気があれば、連載継続というような感じです。

柚月 それはシビアな世界ですね。

おおの それまでの作品は連載まで辿り着けたものがなく、ちょうど貯金が底を突きかけてたので、もうそろそろ潮時かなと思っていたんですよね。徐々にフェードアウトしようかなと思っていたくらいだったので、こんなことになるなんて思ってもみませんでした。

柚月 作品が認められることは大切ですよね。がんばって書いて、作品が多くの方に読んでもらえて仕事が続けられる。この仕事は経験したすべてが糧になりますよね。旅行に行ったりおいしいものを食べたり、いろんな人に会うことが次の作品につながっていく。これからもたくさんのものに触れて、がんばって書いていこうとおもいます。今日、おおのさんとお話しできたことも、とても貴重な経験でした。ありがとうございました。

 ***

おおのこうすけ
滋賀県生まれ。2016年、「月刊コミック@バンチ」に読み切り、「Legend of Music」が掲載されデビュー。現在はWEBマンガサイト「くらげバンチ」にて、初連載となる『極主夫道』を連載中。『極主夫道』は、2020年に日本テレビ系列で玉木宏主演でドラマ化され、2021年にはNetflixでアニメ化も決まっている。犬や猫など動物が好き。しかし、動物アレルギーである。

柚月裕子(ゆづきゆうこ)
1968年岩手県出身。2008年『臨床真理』で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。18年『孤狼の血』は白石和彌監督で映画化もされている。21年『孤狼の血II(仮)』の公開が予定されている。著書に『最後の証人』(佐方貞人シリーズ)、『慈雨』、『盤上の向日葵』など多数。

撮影=平野光良

新潮社 小説新潮
2021年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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