共通点は“十五秒で死ぬ”設定 唸らせること必定の謎解き全四篇

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あと十五秒で死ぬ

『あと十五秒で死ぬ』

著者
榊林 銘 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488020101
発売日
2021/01/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

共通点は“十五秒で死ぬ”設定 唸らせること必定の謎解き全四篇

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 そんなバカな!と思わず叫んでしまう作品って、ミステリーでも滅多にあるものじゃない。本書はだが、そういう問題作ばかり揃えた作品集。

 全四篇収録で、まずは第一二回ミステリーズ!新人賞佳作「十五秒」をお試しあれ。出だしはヒロインが自分の目の前に浮いた銃弾を見るシーン。何と背後から何者かに銃撃されたのだ。戸惑う彼女の前に二本足で立つ猫が現れ「お迎えに上がりました」と言う。死神である。そいつが言うには、いきなりズドンでハイ昇天では人生の余韻もへったくれもないので、死に際に頭の中をいろんな思い出が駆け巡る走馬灯タイムを少しサービスしたと。

 ヒロインは誰に撃たれたのかもわからぬまま死ぬのは嫌だと主張。死神はそんな彼女にあと十五秒残った余命時計を呈示、自分の意志でいつでも時間を止められるから自分で犯人を確かめよと助言する。かくて彼女の十五秒間の戦いが始まるが……。

 落語の名作「死神」を髣髴させる設定だが、ヒロインと犯人との対決には二重三重のヒネリも用意されている。迫真のタイムリミット・サスペンスに加えて謎解きの面白さにも富んだ特殊設定の快作だ。

 続く「このあと衝撃の結末が」は小説内小説というか、十五秒、目を離した間に連続ドラマが思いも寄らぬエンディングを迎えたことに納得出来ない男子中学生がその再検証に挑む。こちらもそのドラマがタイムスリップもののSFミステリーで、多重構造の謎仕掛けあり。

 三篇目の「不眠症」は十五秒間の悪夢に苛まれる娘とその母親を巡る謎を追った話で、特殊設定ものとしてはおとなしめだが、それで油断していると最終篇「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」で度肝を抜かれよう。首の着脱が十五秒間だけ可能な人々が住む島で祭りの開催中、首無殺人が発生。そんなバカなと思いつつも、見事に構築された謎解き趣向に唸らされること必定だ。

新潮社 週刊新潮
2021年2月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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