人志とたけし 杉田俊介著
[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)
2019年、批評家の杉田俊介が「松本人志についてのノート」と題する批評文をインターネットで公開した。原稿用紙70枚ほどの批評文は反響を呼び、著者の「ビートたけし/北野武論」と合わせて書籍化されることになった。
松本人志論の反響の大きさに、著者は「芸能人やお笑い芸人という存在そのものが、現代の社会的・政治的現実のあり方を何らかの形で象徴しているのではないか」と感じたという。芸能界やお笑いの専門家ではない著者ならではの視点は、松本人志に「何もかもをかきまぜて」「台無しにしていく薄気味の悪い悪意の虚(むな)しさ」を、ビートたけし/北野武に「灰色の無限の退屈さの果てにある、くだらねーとしか言いようのない笑い」を見出(みいだ)す。
本書は2章立てになっており、第1章の批評文をもとに、第2章では九龍ジョー、マキタスポーツ、矢野利裕、西森路代との討議が収録されている。四氏とも、同時代の芸能に対する見巧者である。ここで重ねられる批評の言葉は、ただぼんやりとテレビを眺めてきたわたしに、考える糧を与えてくれる。(晶文社、1750円)