デモクラシーの整理法 空井護著 岩波新書

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デモクラシーの整理法

『デモクラシーの整理法』

著者
空井 護 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784004318590
発売日
2020/12/21
価格
924円(税込)

書籍情報:openBD

デモクラシーの整理法 空井護著 岩波新書

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 さまざまな意見の間で右往左往する「決められない政治」は、困ったものである。だが特定の個人や政党がすべてを独断で支配するのも、望ましくない。いまの日本で多くの人が共有している感覚だろう。

 しかし問題なのは、えんえんと続く討論や交渉の手続きも、全員の人気投票で権力を握ったと称する為政者の横暴も、どちらも「民主主義」に即したものとして正当化されてしまうことである。そこでデモクラシーを続けたいと願うなら、どう考えればいいのか。空井護による新著は、そのための思考の「整理法」と題しているが、含意は深い。

 全員が参加して決定する「古典」デモクラシーを過剰に理想化すると、代表制による「現代デモクラシー」には「キズモノ感」が漂ってしまう。反対に、個人の自由の尊重を強調しすぎれば、政府の権力が人権を保障する側面を見おとすことになる。むしろデモクラシーにとって重要なのは、政策案をめぐる言論・集会・結社・報道にかかわる「政治的自由」が確保されていることであり、政策が決定されたのちまで続く、政治活動の「開いた過程」にほかならない。

 空井は、理念としての民主「主義」ではなく、選挙を中心とする「政治体制型(がた)」として、現代のデモクラシーを解明する。「市民」「自由」の概念のとらえ直しや、「政府」と「政策」から出発する議論の進め方に、とまどう読者もいるかもしれない。だが細部にわたる考察を追ううちに、決定の制度としてのデモクラシーの構造がはっきりと見えてくるだろう。

 通常は代表者による政策決定に観客としてつきあうが、体制の原理にかかわる重要問題については、直接参加による決定方式を選ぶ態度。みんなの願望を実現すると自称しながら、「政治的自由」をまったく顧慮しない政策への警戒。本書は著者の表面上の禁欲とは裏腹に、市民と政治家に対する、「まともな」デモクラシーのすすめになっている。

読売新聞
2021年2月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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