『不可逆少年』
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少年犯罪は皆更生させられるのか
[レビュアー] 円堂都司昭(文芸評論家)
デビュー作『法廷遊戯(ほうていゆうぎ)』が話題になった弁護士作家・五十嵐律人(いがらしりつと)は、第二作『不可逆少年』で少年犯罪とむきあい、彼らの過去と未来を考える家庭裁判所調査官・瀬良真昼(せらまひる)を主人公にすえた。
男性三人が殺され、女子高生も毒殺されかけたが生き残る事件が起きる。狐の面で犯行を動画配信したのは、十三歳の少女だった。刑法上で処罰されない刑事未成年者だ。助かった女子高生は、姉だった。事件の犠牲者の子どもが事件を起こし、担当になった真昼は、思い悩む。彼は「やり直せるから、少年なんだよ」と信じていた。だが、赴任先の上司は「不可逆少年」がいるという。生物学的要因で更生できない、元に戻れない不可逆的な存在がいるのだと。教育による更生を旨とする少年法に反する認識だが、凶悪事件に接した真昼は信念が揺らぐ。
被害者たちの子どもと生き延びた一人は、みな同じ高校に通っていた。だが、自分を虐待した男を殺した犯人に感謝するものもいて、思いは一様ではない。作中では覚醒剤、女子高生の髪を切る「カミキリムシ」といった犯罪が語られ、行為への耽溺(たんでき)から抜け出したい、やめさせたいと望む若者が描かれる。真昼は、彼らとどのようにかかわっていくのか。
お笑いには珍しい否定しないツッコミで注目された漫才コンビ・ぺこぱは「時を戻そう」を決まり文句にしている。元に戻れる可逆性と否定しないことが結びついているわけだ。更生においても、ただ否定して排除するのでなく、まず受けとめることが第一歩となる。とはいえ、それはどこまで可能か、難しい。大人に受けとめてもらう前に、自分たちだけでどうにかしようともがく少年少女の姿が哀しい。