岩田剛典「どこか自分のことを、ある意味商品と思っているところがある」 恩師・松尾潔との再会で語った10年間の想い

対談・鼎談

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永遠の仮眠

『永遠の仮眠』

著者
松尾, 潔, 1968-
出版社
新潮社
ISBN
9784103538417
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

対談│松尾 潔×岩田剛典/仄暗い間接照明の下で 

[文] 新潮社

松尾潔さんと岩田剛典さん
10年ぶりの再会を果たした、松尾潔さんと岩田剛典さん(撮影:新潮社)

松尾 潔×岩田剛典・対談「『僕には向かない職業』が教えてくれること」

CHEMISTRY、平井堅、JUJUなど数多くのアーティストの楽曲を手掛ける音楽プロデューサー・松尾潔さんの初小説『永遠の仮眠』が刊行された。
表紙カバーに起用されたのは、松尾さんがデビュー曲をプロデュースした人気グループ三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEの岩田剛典さん。
デビュー以来10年ぶりの再会となる二人が、初上梓となる本作の魅力や仕事への矜持などを語り尽くす。

 ***

人生を変えてくれた出会い

松尾 こういうご時世、こういう形で再会するとは思わなかったよね。僕からのオファー、びっくりしたでしょ? ありがとう!

岩田 今回のお仕事は夢にも思っていませんでした! 僕こそお声をかけてくださって、本当にありがとうございました。

松尾 あのね、僕「岩ちゃん」って呼ぶの、すごく照れくさいの。そう呼んだことなかったから。

岩田 岩田くん、でしたよね。

松尾 けど、今ではみんなの岩ちゃんになったわけだから、今日は岩ちゃんって呼ばせてもらいます。

岩田 もちろんです(笑)。

松尾 去年、デビュー十周年を迎えたんだよね。僕は三代目JSBのデビュー曲をプロデュースしたから、メンバーと面識を得たのは、デビュー少し前の準備期間で。シンガーの今市隆二くん、登坂広臣くんとは接する時間も長くて、濃密な想い出もあるんだけど、岩ちゃんは彼らとは違う傾斜で僕に強い印象を残してくれたんだ。

 あれはデビューの前だったのかな、LDHのアーティストやスタッフと集ってお食事をした時、お店の仄暗い間接照明の下で「内定はお断りすることにしました」みたいな話を聞いたんだよね。僕は、デビューに携わる時、その人たちがずっとショービズを続けられることを願いながら仕事をするんだけれども、この人は、誰もがうらやむような進路を投げ捨ててまで、こちら側に来てくれたのならば、これは責任重大だなって思った。

岩田 そうだったんですか……。

松尾 その時ね、「ダンス、パフォーマンスをすることは、表現という仕事の始まりであって、ここからもっといろんな表現方法が広がるかもしれないよ」ということを僕なりの言葉でお伝えして。(岩田の同窓である)櫻井翔さんがニュースキャスターを務めていたから、たとえばそういう選択肢もあるし、就職活動は回り道ではないから、そういう視点をずっと持っていたらいいと思うよと言ったら、岩ちゃんが「はい、僕、これからも日経は読み続けようと思います」って。あの夜は、広い店内で大勢の仲間たちが自由に振舞っている中で、岩ちゃんにだけピンスポットが当たっているような感じだったよ。

岩田 覚えています(笑)。

松尾 その時思ったんだ。岩田剛典という人は、大変な努力をしてきたはずなんだけど、努力そのものを楽しめちゃう人なのかなって。それってショービズには理想的な姿勢だよね。ならばきっとこの人はこの道をずっと歩めるだろうって。

岩田 たしかにこの十年間、辛いことや苦しいことも、悩んだ時間もたくさんありましたが、自分が好きでやっているというところに落ち着くので。納得して活動してきました。

松尾 三代目JSBって、デビュー以来十年以上にわたって、メンバーチェンジが一度もないよね。それって日本の芸能史でいうと、かなりレアなんだよ。だから、仲間との出会いもラッキーだったよね。

岩田 それはもう本当にそうで。メンバー同士で、こんなチームないねっていつも話しています。みんなもういい歳なんですけど、いまだに青春していて(笑)。いいチームワークです。自分の人生を変えてくれたグループです。しかもそのデビュー曲を松尾さんが手がけてくださって。

松尾 ご縁だよねぇ。あの頃、僕にいろんな意見や質問を投げかけてくるタイプのメンバーもいたんだけど、岩ちゃんはそういうのはなかったかなあ。

岩田 引っ込み思案なので。

松尾 そうなの? ちょっと控えめに、周りの状況を観察しているのかと思ってた。

岩田 メンバーの中で一番年下なので、年上の方がどう動くかをずっと見てきたところはあります。それに加えて、昔から俯瞰で物事を見る癖があって。

良いところだよとも言われるんですが、考える前にまず行動してしまいたい、飛び込みたい時もあって。けど、まず頭で考えてしまう癖がどうしても抜けないんです。

松尾 この仕事をするうえで、それは今、美徳になっているんじゃないかな。軽率な発言、失言を未然に防げるし、周りの人を傷つけることもない。岩ちゃんの良さって、翌朝になって「あ、昨日、良いこといってたな」って思いだせるところなんじゃない?

岩田 日経、読みますとか(笑)。

松尾 僕もこの仕事長いけど、そんな会話をしたことは、後にも先にもないからね(笑)。


松尾潔さん(撮影:新潮社)

自叙伝のような小説

松尾 これまでいろんなラブソングを手がけてきたせいか、『永遠の仮眠』は恋愛小説ですかってよく聞かれるんだけど、この作品は、ラブの先のライフを見つめる小説でね。人は「取り戻す」という作業をずっと続けなければならないという提案をしているんだ。これからの人生の歩み方次第で、過去を、過去こそ変えられるんじゃないかと。この小説がそのヒントになればいいなと思っている。舞台は音楽業界だから、そのリアリティを出すために、プロデューサーとアーティストが普段密室でどういう会話をしているかも、書きすぎかなって思うくらいに書いたけどね。そのあたり、どうだった?

岩田 主人公の悟と彼がプロデュースしたシンガーの義人がスタジオでかわす会話は本当にリアルでした。派手ではない、地味な会話の積み重ねで、信頼関係は培われると思うので。自叙伝のような感覚で読ませていただきました。

松尾 フィクションなんだけど(笑)。今回、小説の作者として自分の名前を前面に出す立場になってみて、パフォーマンスを見せることにどれだけ責任や重圧が伴うか初めて分かった気がする。自分がどんどん出てきてしまって、恥ずかしくなる瞬間もあるし。岩ちゃんはどう? 脚本があっても演技に否応なく自分が出てしまうと恥ずかしくなる?

岩田 今は、その恥ずかしい部分も自分でコントロールできるようになりました。昔は、自分の嫌な部分やあまり人に見せたくないところが出てしまったり、自分だけ動きが悪いなって感じると悩んでいたりしましたが、最近は自分自身が出てもいいというか。十年の歳月がそういうスタンスでいられるように、僕を成長させてくれたんだと思います。

松尾 何かきっかけがあったのではなく、月日がそうさせたってこと?

岩田 人からどう見られているかを考え続けて、自分なりの強みやアイデンティティを整理してきた十年でした。だから今は、自分が発信する言葉や行動すべてがこれでいいと思える自分になったかなって。

松尾 すごくいい精神状態を保てているんだね。自分の仕事は映画であれ、テレビであれ、もしくはライブ映像であれ、細かくチェックするタイプ?

岩田 ひととおりします。恥ずかしい気持ちはありますし、満足できない、納得できない部分は絶対に出てきますが、それが悔しさや反骨心に火をつけてくれるので、次回以降にがんばるモチベーションになります。未完成な自分の姿を敢えてプレイとして見ている感じですね。

松尾 対峙するというか、ちょっとマゾヒスティックな?

岩田 戒め的な感じです(笑)。

松尾 そんな岩ちゃんがこの十年の中で、一番苦しかったのって、いつ頃?

岩田 急に売れた時期です。2014、2015年くらいは、想像を超えたところに自分たちが行ってしまったようで、中身が追い付いていなくて。人間としての器、状況を受け止めるだけの度量がありませんでした。この先、どうなっちゃうんだろうって、不安でしたね。

松尾 アポロで月まで行って、ゼログラビティを体験してきた人の話を聞いているみたいだね。しかも、その行き来が何度も続くんだものね。僕の知っているベテランの方々も無重力を体験することに慣れるかというと、今でも緊張すると。無重力に慣れることはなくて、行き来する時の身の処し方に慣れてくるだけかもしれないと仰っていたな。

岩田 今のお話、とても腑に落ちました。


岩田剛典さん(撮影:新潮社)

多層的な人生

松尾 昔、ATSUSHIくんがね、スタジアムでライブをして、終了後にホテルや自分の部屋とか、一人の空間に戻った時にふと、「さっきのは現実だったのかなぁ」と思ってしまって、いまだに慣れないんです、みたいなことをしみじみと言っていたんだけれども。岩ちゃんはデビューして十年経って、ドーム公演も何度も経験してきた今でもそういう感覚ってありますか? そしてあるとしたらそれをどう思っている?

岩田 それに近い感覚はありますね。僕は、どこか自分のことを、ある意味商品と思っているところがあるんです。

松尾 俯瞰して自分を見ているの?

岩田 そうですね。僕は本名で芸能活動をしていますが、本来の自分は、岩田剛典という商品を客観的に見ているというスタンスなんです。ステージが終わって、楽屋に戻って、ホテルの部屋に戻った時の本来の自分は、ごく普通。でも、ステージに立っている時だけはスポットライトを浴びて、お客さまが歓声をあげてくださる。まだ若造ながら、人の二倍の人生を生きているような感覚です。

松尾 多層的な人生なんだね。なるほど。今日の話を聞いて、岩田剛典という表現者が、これからも長いキャリアを積み重ねていくことを確信したよ。楽しみがさらに大きくなりました。どうもありがとう。

岩田 ありがとうございました。

松尾 岩ちゃん、クールだね。

岩田 いやいやいや(笑)。


松尾潔さんと岩田剛典さん(撮影:新潮社)

新潮社 波
2021年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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