建物の重要な「機能」を思い出させる不便でも魅力的な10平米の「カプセル」

レビュー

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中銀カプセルスタイル

『中銀カプセルスタイル』

著者
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト [編集]
出版社
草思社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784794224880
発売日
2020/12/23
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

建物の重要な「機能」を思い出させる不便でも魅力的な10平米の「カプセル」

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 東京銀座のはずれ、8丁目。変わった外観のビルは目立つが、外から見ただけでも老朽化が進んでいることがわかる。黒川紀章設計、中銀カプセルタワービル。コアシャフトと呼ばれる2本の中核部分の周囲に、140の小さなカプセル(直方体の部屋)がとりつけられている。このカプセルがでこぼこに張り出しているようすが特徴的で、一目見たら忘れられない。

 もともと、古くなれば外して取り替えられるように、部屋をカプセル状にしてあるのだ。しかし1972年の竣工以来、カプセルの入れ替えはない。ビルそのものを建て替える話が紛糾して世を騒がせたこともあるが、結局、建て替えか大規模修繕かの選択も宙づりのままだ。

 この本は、20のカプセルの内部を撮影し、その居住者を紹介するもの。簡素なオフィスをつくりリモートワークの拠点にする人、週末を過ごす別荘にしている人、現代的な茶室風の部屋にする人、外界と「つながらない」ための場所にする人。どの使い方も個性的だ。カプセルは床面積わずか10平米。部屋に置く「もの」も、そこでする「こと」も、ぎりぎりまで削ぎ落とす必要があるが、そこが工夫のしどころでもある。

 排水に難がある、雨漏りもする。シャワー・トイレとも共用スペースを頼らなければならない部屋もある。部屋で食事をつくるのも、かなり難しそうだ。しかしそれでもこの空間を存続させたいと願う人たちが、難度の高いリノベーションに取り組んだり、逆にあえて改装せず不便さに耐えているのを見れば、豪華な新築マンションに欠けているものがはっきり見えてくる。

 月極めで借りられるカプセルも人気だし、購入希望者も後を絶たない。不便な場所、安心安全とはいえない場所にあえて身を置く時間が、人の心を新鮮にし、住民同士を連帯させる。そんな「機能」も、建物にはあるんですね。

新潮社 週刊新潮
2021年3月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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