『鳥取雛送り殺人事件』
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雛送りの行事を手がかりに展開していく推理
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「人形」です
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人形は可愛いのにどこか怖い。それは遠い昔、人形は神の形代(かたしろ)であってそこには霊がこもっていると考えられていたからだろう。
ミステリ作家、内田康夫の浅見光彦シリーズ『鳥取雛送り殺人事件』は可愛い人形ではなく、怖い人形が事件の鍵となる。
新宿の花園神社で男性の死体が発見される。不思議なことに死体は俵の蓋(ふた)のようなものを枕にしていた。
桟俵(さんだわら)、俗にいうさんだらぼっち。米俵の両端にある藁(わら)で編んだ丸い蓋のこと。
一方、殺されたのは人形の町、埼玉県岩槻にある人形作りの会社で要職にある人形師だった。
桟俵と人形。二つが手がかりになる。浅見光彦は母親から、昔は桟俵に人形を載せて川や海に流したものと教えられる。人形を流すことで女性の病気や穢(けが)れを祓い落す行事だという。
そもそも雛祭りとは婦人病平癒のための神様を祀る行事だとも。
ここから事件は、いまでも桟俵に人形を載せて川に流す行事が行なわれている、鳥取県の山間部に源があるのではないかと推理される。
実際、鳥取県の用瀬(もちがせ)という町では、いまでも雛流しが行なわれているという。浅見は鳥取へと飛ぶ。そこで怖い人形を見つける。
霊がこもった人形を粗末に扱えば祟(たた)られる。殺された人形師は祟られたのでは。
最後の舞台となる若桜(わかさ)町は鉄道ファンには若桜鉄道の走る町として知られる。いくつかの駅には偶然にも地元の人が作った案山子(かかし)のような人形が置かれている。