雛送りの行事を手がかりに展開していく推理

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鳥取雛送り殺人事件

『鳥取雛送り殺人事件』

著者
内田 康夫 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041607459
発売日
1999/02/23
価格
792円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

雛送りの行事を手がかりに展開していく推理

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「人形」です

***

 人形は可愛いのにどこか怖い。それは遠い昔、人形は神の形代(かたしろ)であってそこには霊がこもっていると考えられていたからだろう。

 ミステリ作家、内田康夫の浅見光彦シリーズ『鳥取雛送り殺人事件』は可愛い人形ではなく、怖い人形が事件の鍵となる。

 新宿の花園神社で男性の死体が発見される。不思議なことに死体は俵の蓋(ふた)のようなものを枕にしていた。

 桟俵(さんだわら)、俗にいうさんだらぼっち。米俵の両端にある藁(わら)で編んだ丸い蓋のこと。

 一方、殺されたのは人形の町、埼玉県岩槻にある人形作りの会社で要職にある人形師だった。

 桟俵と人形。二つが手がかりになる。浅見光彦は母親から、昔は桟俵に人形を載せて川や海に流したものと教えられる。人形を流すことで女性の病気や穢(けが)れを祓い落す行事だという。

 そもそも雛祭りとは婦人病平癒のための神様を祀る行事だとも。

 ここから事件は、いまでも桟俵に人形を載せて川に流す行事が行なわれている、鳥取県の山間部に源があるのではないかと推理される。

 実際、鳥取県の用瀬(もちがせ)という町では、いまでも雛流しが行なわれているという。浅見は鳥取へと飛ぶ。そこで怖い人形を見つける。

 霊がこもった人形を粗末に扱えば祟(たた)られる。殺された人形師は祟られたのでは。

 最後の舞台となる若桜(わかさ)町は鉄道ファンには若桜鉄道の走る町として知られる。いくつかの駅には偶然にも地元の人が作った案山子(かかし)のような人形が置かれている。

新潮社 週刊新潮
2021年3月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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