米国人ジャーナリストが原発事故で失われた「福島のバラ園」を世界に発信する理由 #あれから私は

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失われた福島のバラ園

『失われた福島のバラ園』

著者
Moore, Maya松田, 久子水上, 洋子, 1955-
出版社
世界文化社
ISBN
9784418202034
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

東日本大震災から10年。米国人ジャーナリスト、マヤ・ムーアさんが世界に届け続ける『失われた福島のバラ園』の物語

[文] 世界文化社


米国でのブックトーク。「福島のバラの物語に出会えてよかった」と涙を浮かべる人も。

東日本大震災より10年。『失われた福島のバラ園―The Rose Garden of Fukushima 』の著者マヤ・ムーアさんに、原発事故により失われた『双葉ばら園』(福島県双葉町)の物語を世界に発信してきた活動について、話を聞いた。

――『失われた福島のバラ園―The Rose Garden of Fukushima』は英語版を先に出版しました。

2014年に英語版で『The Rose Garden of Fukushima』を作りました。バラたちの美しく瑞々しい姿が、「福島の今」を世界に伝えてくれると思ったからです。

――本を作るきっかけは?
2012年2月、朝のニュースで『双葉ばら園』の写真展の様子が紹介されていました。美しいバラの写真を見た瞬間、私の中で大きな衝撃が走りました。2万坪の敷地に750種7500株のバラが咲き誇っていたという『双葉ばら園』の存在は、そのとき初めて知りました。巨大地震、津波、原発事故、人々の生活を一変させてしまった放射能の存在を、バラが語ってくれると直感したのです。


英語版に寄稿した元駐日米国大使・ジョン・V・ルース氏。米国でのブックトークにも参加。

 私は原発事故を比較的近いところで3回経験しています。1979年のアメリカ・ペンシルバニア州で起きたスリーマイル島のときは、ミシガン州の高校で寮生活をしていました。1986年のチェルノブイリ事故のときは、パリに住んでいて風向きが気になって怖かったです。そして、福島。無色無臭の放射能の恐怖は、私にとっても他人事ではないのです。

ニュースを見てすぐに園主の岡田勝秀さんに連絡を取り、つくば市の仮設住宅まで伺って本を書かせてほしいとお願いしました。愛情たっぷりにバラを撮影した横浜バラ写真の会の講師をしている松田久子さんにも会いに行き、何千とある生徒さんの写真すべてに目を通して、心に触れた写真を選んでいきました。


2018年、コペンハーゲンでの第18回世界バラ会議にて英語版が「最優秀書籍賞」受賞

――『The Rose Garden of Fukushima』は海外で様々な反響を得たそうですね。

米国各地や香港などでのブックトークに招かれました。アメリカ・ウィルミントンの会場では「福島のバラの物語に出会えてよかった」と涙を浮かべる参加者がいましたし、フィラデルフィアで出演したラジオ番組“You Bet Your Garden”では、パーソナリティのM・マクグラス氏が「世界で一番美しく、世界一悲しいガーデニングブック」と評しました。サンフランシスコでのブックトークには、素晴らしい序文を寄せてくれたルース元駐日米国大使も来賓として参加、「福島のひとりの男が、人生を賭けて作り上げた類まれなバラ園。その物語は東北の心の強さをも示してくれた」と語ってくれました。

――2018年、デンマーク・コペンハーゲンで開催された世界バラ会議で「優秀書籍賞」を受賞されました。

はい。実は、2011年5月に世界バラ会連合の世界会議が日本で行われていて、バラの世界で錚々たるメンバーが『双葉ばら園』を視察に訪れる予定でした。岡田さんが独学で作り上げた庭園が世界的に認められる機会を目前に震災が起こったことを考えると、悔しさと怒りが込み上げてきます。


2015年に届いたウイリアム王子からの手紙。献本への感謝と東北への思いが記されている。

――イギリスのウイリアム王子も本を読まれたとか。

本を作ろうと思い立ちなかなかうまく進まず諦めかけていたときに、ダイアナ妃が私の夢に現れ“I help you”とはっきり語りかけてくれたのです。かつて英国日本大使館の文化部で働いていた頃数回お目にかかる機会があり、確かに夢に出てきたのがダイアナ妃だとわかりました。2015年に東北を訪れたウイリアム王子に本を献呈したいと思い、駐日英国大使館を通じて手紙をともにお届けすることができました。光栄にも感謝のお手紙をいただきました。「バラ園で起きた物語を非常に興味深く知ることができた。東北を慰問できたことを光栄に思う」と記されていました。

――日本語版『失われた福島のバラ園』は2020年に出版されました。

最初に英語版を制作したのは、世界に発信したい気持ちと同時に、まだ傷が癒えているとは思えない福島の人々のことを思ったからです。震災から10年、この本が「語り場」になれればいいなと思っています。岡田さんとバラ園の話はたった一つの話。でも震災の被害を受けた人には、それぞれに大事で深い話があります。それらを全部、何らかの形で語り続けてほしい、そして、忘れないでほしいと強く願っています。

世界文化社
2021年3月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

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