死んだ人から来た、不思議なメール。それが恐怖の始まりだった――イヤミスの女王が贈る、二度読み必至の衝撃作『フシギ』

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フシギ

『フシギ』

著者
真梨 幸子 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041099834
発売日
2021/01/22
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

死んだ人から来た、不思議なメール。それが恐怖の始まりだった――イヤミスの女王が贈る、二度読み必至の衝撃作『フシギ』

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

■真梨幸子『フシギ』(KADOKAWA)

真梨幸子『フシギ』 定価: 1,760円(本体1,600円+税)
真梨幸子『フシギ』 定価: 1,760円(本体1,600円+税)

 真梨幸子の最新刊『フシギ』の帯には、「二度読み必至の衝撃作!!」と書かれている。この“二度読み”という言葉、ミステリー以外では、あまり使われていない。そこにミステリーという文芸ジャンルの特殊性を見ることができるだろう。

 そもそも二度読みとはどういうことか。かつて読んだ本が面白かったので、再読することは、どんなジャンルでもある。でも二度読みは、それとは違うのだ。まず初読時だが、ミステリーの真相やトリックに衝撃を受ける。しかしそれを成立させる伏線は、ちゃんと張られていたのか。いかに巧みに読者の思考をコントロールし、ミス・リードを誘っていたのか。こうしたことを確認したくて、ラストの一行にたどり着いた途端、すぐさま冒頭から読み返してしまう。そして作者の見事な手際を納得したとき、あらためて深く感心してしまうのである。まさに二度読みは、ミステリーならではの楽しみなのだ。だから「二度読み必至の衝撃作!!」などと書かれると、最初から大きく期待してしまう。そして作者は、こちらが上げに上げたハードルを、軽々とクリアしてのけたのである。

 本書は連作風の長篇である。冒頭に「本作品は、私自身が体験、または見聞きした“不思議”を、小説として仕上げたものだ」とあり、なんとなく実話怪談みたいだと思った。第一話「マンションM」の“二〇一九年、五月のある日のこと”という書き出しも、実話怪談のイメージを強める。なにしろ、こういう感じの書き出しが、実話怪談には多いのだ。
 さらに読み続けると、ホラーとしかいいようのない物語が展開していく。主人公で語り手の“私”は、デビューして二十四年目の作家。赤坂のタワーマンションで暮らしているのだから、作家としては成功した部類だろう。ある日、株式会社ヨドバシ書店の編集者・尾上まひるから、一度会いたいというメールが来る。仕事の依頼なら断るつもりだったが、“私”が上京して最初に住んだマンションMの四〇一号室で、尾上も暮らしていたことがあるという。しかも“私”と同じような、金縛りを体験しているというではないか。実際に会った尾上から聞いた奇怪な話にきな臭いものを感じた“私”は、仕事を断ることにする。だが、マンションMに取材に行った尾上が、例の部屋から転落して重体になったとの連絡が入るのだった。
 その後、尾上は死亡。ところが死んだはずの彼女からのメールが届く。そこには臨死体験のときに三人の女性を見たが、三人目の正体が分からないとあった。この尾上を巡る一件が、本書を貫く大きな謎となっている。
 その傍ら、別の作家が過去に暮らしていた家に関する恐怖体験や、“私”を担当するカリスマ美容師から聞いた話、花本女史という編集者の母と叔母の思い出などが綴られていく。どれも独立した短篇といっていいほど完成度は高い。「事故物件」を題材にしたホラーであると同時に、ミステリーの仕掛けやサプライズも盛り込まれており、ページを捲る手がもどかしくなるほどの面白さなのである。

 だが、やはり最大の衝撃は、最終話の「エニシ」で明らかになる真実であろう。“私”の視点で語られるストーリーに流れる、どこか不穏な空気と、ちょっとした引っ掛かり。そこにこんな意味があったのか。なるほど、イヤミスの名手である真梨幸子ならではのホラー・ミステリーだと感心しきり。そしてすぐさま二度読みをして、いかに文章の隅々まで気を使っているのかを理解してしまった。一冊で二度楽しめる。まさに「二度読み必至の衝撃作!!」なのである。

(評者:細谷 正充 / 文芸評論家)

▶真梨幸子『フシギ』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322006000159/

■『フシギ』関連記事

冒頭はこちらの記事でためし読みできます!
https://kadobun.jp/trial/yasei/766.html

KADOKAWA カドブン
2021年03月03日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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