まだ紹介されていない新進作家6人による短編集

レビュー

8
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中国・アメリカ 謎SF

『中国・アメリカ 謎SF』

著者
柴田 元幸 [編集、訳]/小島 敬太 [編集、訳]
出版社
白水社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784560097991
発売日
2021/02/02
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

まだ紹介されていない 新進作家6人による短編集

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 二つの大国、中国とアメリカの、まだ日本ではほとんど紹介されていない新進作家六人による七作品を集めた短編集だ。人間はどれぐらい想像力を広げられるか競うようでもある。現実が、作家の奇想と専門知識を通してさまざまな姿に転写され、目を見開かずにいられない。

 巻頭の「マーおばさん」は、コンピュータの試作機をチェックするため自宅に持ち帰ったエンジニアが、試作機を動かしていたのがある身近な生き物だと知る(ヒントはタイトルに隠されている)。何が入っていたかが謎の第一弾とすれば、その先にはさらに、哲学的ともいえる壮大な謎が待ち受けている。

 文章の中に、荘子や孔子の言葉がなにげなく出てくると、「これは中国のSFだ」と意識させられるけど、どちらかと言えば、中国とアメリカの作家の相違点よりも、共通点に気づくことが多かった。

 人間は、自分たちの手で世界をほぼコントロールできているかのように錯覚しがちだが、視点を変えれば、人間も宇宙のごく一部でしかない、というのは、短編集全体を通底する認識であるようだ。

 中国の作家に欧米への留学経験があったり、「曖昧機械―試験問題」のヴァンダナ・シンはインド系だったり、書かれている言語が中国語か英語かの違いはあっても、作風を「中国/アメリカ」で二分するのは難しい。環境経済学を学んだ王諾諾「改良人類」は六百年先の中国をハイテク社会がきわまった場所として描き、考古学者であるマデリン・キアリン「降下物」は数世紀先のアメリカを爆撃されて荒廃した場所として描く。対照的と言えば対照的だが、ディストピアに切れ目をつくるラストは相似をなすようでもある。

 時間的・物理的な距離をはるばる旅する主人公にだれひとり英雄はおらず、孤独に苛まれたから、恋人にふられたからという個人的な理由であるのもきわめて現代的だ。

新潮社 週刊新潮
2021年3月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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