リアルにイメージできる日本史の中の“女性の姿”

レビュー

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リアルにイメージできる日本史の中の“女性の姿”

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)


『性差の日本史』
国立歴史民俗博物館[編]
(国立歴史民俗博物館振興会)

「うちにも3回ほど入荷しましたが、店頭に並べるたびにすごい勢いでなくなってしまう。企画展の図録がここまで大きな反響を呼ぶのはかなり珍しいです」

 書店の売り場担当者が興奮しながら話すのは、昨年10月から12月にかけて国立歴史民俗博物館で開催された企画展示『性差(ジェンダー)の日本史』の図録のこと。閉幕後も話題を集め、現在5刷と異例の増刷を重ねている。

 ここでいうジェンダーとは文化的・社会的に作られる「性差」のことだ。日本史における「男女」のあり方や与えられた役割の変遷を、「政治空間」「仕事とくらし」「性の売買」の三つのテーマからひもといた同展は、国内でも画期的な試みとして開催前から注目を浴びていた。ところがコロナ禍で入場制限が設けられ、やむなく観覧を断念した人も少なくない。「ありがたいことに“せめて図録を”と注文してくださる人が多いんです」と企画代表である横山百合子氏は語る。

 通常の企画展示の場合、毎週末にギャラリートークを会場で行なうのが通例だが、今回は“密”を避けるためすべて中止。その代わり、音声ガイドを録音する際、各コーナーの担当者が実際の展示室をまわりながらリレー形式で見どころをたっぷり解説していくやり方を採用した。この音声ガイドをHP上で公開すると、“図録を眺めながら聴くことで臨場感を味わいながら鑑賞できる”と評判に。配慮と工夫の賜物だろう。

 重要文化財を含め、280点を超える豊富な「モノ」の資料から浮かび上がるのは、当時の女性たちが確かにそこに存在し、社会を担い生活を営んでいたという実感だ。「近年フェミニズム関連の本は全般的に好調ですが、“日本の歴史”の中でここまでリアルに女性の姿をイメージできる刊行物はなかった」と書店関係者も太鼓判を押す。

「例えば、女性官僚の骨を納めた骨蔵器。元々“火葬文化の証拠”として歴博でも複製を展示していましたが、“ジェンダーを示す資料”とは思われていなかったんです。光の当て方が変わることで、従来とは異なる歴史や社会の姿が見えてくるということも感じ取ってもらえたら幸いです」(横山氏)

新潮社 週刊新潮
2021年3月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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