『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』読書の世界が大きく広がるガイドブック

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大人だって読みたい!少女小説ガイド

『大人だって読みたい!少女小説ガイド』

著者
嵯峨景子 [著、編集]/三村美衣 [著、編集]/七木香枝 [著、編集]/丹地陽子 [イラスト]
出版社
時事通信出版局
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784788717046
発売日
2020/11/19
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』読書の世界が大きく広がるガイドブック

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 小説のガイドブックが好きだ。もともと小説が好きなので、それについてのガイドブックに興味を惹かれるのは当たり前。読んだ本が取り上げられていれば、どんな風に評価されているのか確認せずにはいられない。読んだことがない本について面白そうに書かれていたら、「なんで今まで、この本のことを知らなかったんだ」と悶えながら、書店に買いに行く(私は書店購入派)。隅から隅まで舐めるように読み、とことん活用するのである。

 とはいえガイドブックにも、内容が濃いものもあれば、薄いものもある。執筆者の熱意と知識により、充実度が変化するのだ。その観点から本書を見ると、実に濃密である。なにしろ冒頭に収録されている、津原泰水と若木未生へのインタビューから、大いに飛ばしているのだ。

 さまざまなジャンルを横断しながら、優れた作品を発表している津原泰水は、かつて津原やすみ名義で、少女小説(当時はまだライトノベルという名称はなかった)のレーベル・講談社X文庫ティーンズハートからデビュー。『あたしのエイリアン』や『ルピナス探偵団』シリーズで人気を博す。長らく性別不明だったが、それが編集部の意向だったことや、事実を公表できないことに苛立っていたことが語られている。

 若木未生は、九〇年代に『AGE』がコバルト・ノベル大賞に佳作入選してデビュー。集英社コバルト文庫の『ハイスクール・オーラバスター』シリーズで一世を風靡した。インタビューでは人気作家になり量産を強いられ、心身共にボロボロになった様子を、赤裸々に語っている。まさに今だからこそ出来る話だろう。少女小説というジャンルに興味のある人は、ふたつのインタビューだけで本書を買う価値がある。ただしこれは、あくまでも作家側の視点だ。出版社には出版社の言い分があるはず。贅沢な不満であることを承知の上で、当時の編集者の発言も欲しかったといっておこう。

 そしてブックガイドの部分だが、嵯峨景子・三村美衣・七木香枝の三人が担当している。嵯峨景子は現在、幅広いレンジで少女小説の研究や評論をしている、気鋭のフリーライターだ。三村美衣は、SF・ファンタジー・ライトノベル・YAなどのジャンルで、昔から活躍しているレビュアーである。七木香枝については恥ずかしながら本書で知ったが、ガイドをしている本の癖のあるチョイスを見ると、かなりの読み手と窺える。まさに少女小説ガイドの執筆者として、最強の布陣となっているのである。

 しかも作品セレクトがいい。「妖」「宮廷」「仕事」「謎解き」「SF」「青春」「恋愛」「歴史」「異世界」と、九つのカテゴリーに分けて、すでに評価の定まった名作から、現在も刊行中の新作まで、万遍なく目配りされている。私も、この手のガイドブックを作ったことがあるから分かるのだが、自分の趣味を抑えて全体のバランスをとるのに苦心したものだ。だから本書の見事なバランス感覚は称揚するしかない。

 さらにいえば、こうしたガイドブックを作ると、一作家一作に絞りがちである。だが本書では、複数の作品が取り上げられている。たとえば青木祐子は「仕事」の項で『これは経費で落ちません!』と『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』シリーズが選ばれているのだ。たしかにどちらも面白い作品なので、こうした姿勢は英断といっていいだろう。

 また、西東行の『鳥は星形の庭におりる』、小松由加子の『機械の耳』、谷山由紀の『天夢航海』など、現在ではあまり言及されない良作がピックアップされているのも嬉しい。個人的に好きな作品なので、よくぞ選んでくれたと感動してしまったのである。

 一方、片山奈保子の『さよなら月の船』や、瑞山いつきの『マギの魔法使い』シリーズなど、今までチェックしていなかった作品が、実に面白そうに紹介されている。あれもこれも買わねばと、大慌てだ。本を買わせる力を持っているのは、いいガイドブックの証拠。少女小説を好きな人だけでなく、よく知らない人でも手に取ってほしい。読書の世界を大きく広げてくれる、素晴らしきガイドブックなのである。

時事通信出版局
2021年3月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

時事通信出版局

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