金と暴力と欲望が渦巻くエンターテインメント警察小説! 痺れるほどにイカれた刑事の生き様をとくと見よ

レビュー

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

鬼哭の銃弾

『鬼哭の銃弾』

著者
深町秋生 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575243697
発売日
2021/01/21
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

二十二年前の未解決事件を担当する刑事・日向直幸は、DVにより縁を切った元鬼刑事の父親と対峙する。深町秋生の警察小説は、とことんハードだ。

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 愛と暴力とカタルシスなど、人間の業を凝縮させた警察小説の大傑作が誕生した。本書の読みどころを書評家の細谷正充さんが解説する。

 ***

 双葉社の月刊文芸誌「小説推理」に好評連載された、深町秋生の『刑事たちの刹那』が、『鬼哭の銃弾』のタイトルで単行本になった。刑事を主人公にした警察小説だが、ある人物の存在により、ジャンルの枠組みからはみだした内容になっている。そこにこの作者らしさがあるといっていい。

 府中市内で起きた発砲事件。弾丸の線条痕の鑑定により、使われた銃が、二十二年前の事件で使用された可能性が出てきた。スーパー「いちまつ」で店長、パート、バイトの三人が射殺され金が奪われた、未解決事件だ。この一件の捜査を任されたのが、幼児虐待死事件を解決したばかりの、警視庁捜査一課殺人犯捜査三課の日向直幸である。日向班を引き連れ府中署の特捜本部に乗り込んだ直幸。だが特捜本部とは温度差があり、さらに何者かによって事件の情報がマスコミにリークされた。

 最初から困難な状況に陥りながら、それでも捜査を進める直幸。ところが発砲事件の容疑者として浮上したのは、直幸の父親で元鬼刑事の繁だった。過去のDVにより父と縁を切っていた直幸。行方の分からない繁を捜すうちに、父親がかつて捜査に携わっていた“いちまつ事件”を、追っていることに気づくのだった。

本書のメインの謎は“いちまつ事件”である。ただし主人公の父親の謎が加わることで物語が予想外の膨らみを見せる。もともと暴力的だった繁だが、“いちまつ事件”の捜査を外されたことで、直幸たちへのDVが激しくなったという過去があるのだ。つまり直幸も“いちまつ事件”と、間接的に深い因縁を持っていた。

 だからこそ直幸は、父親が事件を追っていることを知って心が揺れる。妻の渚紗が妊娠九ヶ月という設定が、それを際立たせる。自分の性格に父親と似たところがあること
が分かっているので、妻子への対応を間違ってしまうかもと、悩んでしまうのだ。また、ついに現れた父親との関係にも苦しむ。だが、だからこそ本書は面白い。最後まで読めば本書が、警察小説というだけでなく、父と子の物語になっていることに納得してしまうのである。

 さらに繁が登場する場面になると、バイオレンス・ノベル風になるのが愉快。自分の息子であろうと、邪魔だと思えば徹底的に叩き潰す。まるで狂犬のような繁に嫌悪感を抱きながら、いつの間にか惹きつけられる。このようなキャラクターを創り出したところも、本書の読みどころになっているのだ。

小説推理
2021年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加