鬼才 伝説の編集人 齋藤十一 森功著 幻冬舎  2016年の週刊文春 柳澤健著 光文社

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鬼才 伝説の編集人 齋藤十一

『鬼才 伝説の編集人 齋藤十一』

著者
森功 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344037281
発売日
2021/01/14
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

2016年の週刊文春

『2016年の週刊文春』

著者
柳澤健 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784334952143
発売日
2020/12/16
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

鬼才 伝説の編集人 齋藤十一 森功著 幻冬舎  2016年の週刊文春 柳澤健著 光文社

[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)

 東京は牛込矢来町の新潮社に、シルバーのBMWが横付けされる。運転手が後部ドアを開けると、老紳士が姿を現す。紫煙を燻(くゆ)らせ歩く男に、新潮社の社員は頭(こうべ)を垂れる。『鬼才』に描かれる、ゴッドファーザーのような老紳士は、「新潮社の天皇」と称された伝説の編集者・齋藤十一(じゅういち)である。

 21年にわたり「新潮」の編集長を務めながら、齋藤は「週刊新潮」や「FOCUS」を創刊し、実質的な編集長として君臨した。「女、カネ、権力」という人間の欲望に焦点を当て、誰よりも早く「微妙なところ」を嗅ぎつける。人間嫌いと呼ばれた齋藤に特別な情報元はおらず、「狂気めいた鋭さ」だけで直観的にネタを探り当てる。「天から降ってくるテーマ」は必ず当たり、齋藤の存在は神格化されてゆく。記者は齋藤の足となり、地の果てまで取材にまわる。

 作家や政財界から面会の依頼があっても、齋藤は「毎日音楽を聴かなくちゃならないから」と断り、直観を磨き続けた。対照的に、「雑誌記者の基本は人に会うこと」と語るのは文芸春秋7代目社長・田中健五である。『2016年の週刊文春』は、「文芸春秋」の創刊まで遡りながら、底抜けに明るく、「仕事と遊びの境界線が曖昧で、アマチュアっぽさ」を残した文芸春秋の社員たちの群像を描く。

 「正義感からではなく、好奇心から」。この根本思想のもと、「週刊文春」はスクープを追い求めてゆく。スクープ記事に対し事前検閲や事前差し止めが求められ、メディアが萎縮(いしゅく)する時代においても、「親しき仲にもスキャンダル」を信条とする新谷学編集長の指揮により、「週刊文春」は仁義なき戦いへと突き進む。

 文春と新潮。アプローチは対照的だが、人間の業にとことん向き合う姿勢は同じだ。雑誌記者の濃厚な生き様に、心がひりつく。

読売新聞
2021年2月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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