デジタルエコノミーの罠 マシュー・ハインドマン著 NTT出版

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デジタルエコノミーの罠

『デジタルエコノミーの罠』

著者
マシュー・ハインドマン [著]/山形浩生 [訳]
出版社
NTT出版
ISBN
9784757123779
発売日
2020/11/25
価格
2,860円(税込)

書籍情報:openBD

デジタルエコノミーの罠 マシュー・ハインドマン著 NTT出版

[レビュアー] 小川さやか(文化人類学者・立命館大教授)

 インターネットを語るときの問題は、インターネットが「二つあるということだ」と著者は言う。私たちが間断なく利用している現実のものと、理想化された空想のものだ。本書は、インターネットにまつわる誤解や思い込みを、実証データとそれに基づく理論モデルによって次々と破壊しながら、関心を動かすために何にコストを投じるかという「関心経済」の重要性を論じている。

 GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の覇権が取り沙汰されながらも、いまだにインターネットが通信や経済生活を民主化すると考える人々は多い。だが、空想のインターネットとは異なり、現実のインターネットでの大半の利潤は、ごくわずかな企業の巨大データ工場で生産されている。観衆が何万ものサイトに薄く広がり、各サイトが独自のニッチを分けあっているというのも幻想だ。実際には「規模の経済」を実現した企業が広告の半分を支配し、大多数のサイトを日々淘汰(とうた)している。

 苦境に陥る地方ニュースサイトや独立ブログは、課金制からオープンウェブ化、非営利化まで様々な解決策を検討している。だが、GAFAが観衆の「粘着性(利用者を引きつけ、長く滞在させ、リピートさせる能力)」を高めるために莫大(ばくだい)な費用を投じているのは、サイトの読み込みや情報探索にかかる速度の改善や個人にあわせたコンテンツ推奨システムの開発など基盤的なものだ。実証データは、コンテンツの独自性や質よりも、読み込みや更新の「速い」サイトがアクセス数を稼ぎ、その収益をさらなる開発に投資できる企業がますます成長することを示唆している。

 関心をめぐる熾烈(しれつ)な競争を「デジタルダーウィニズム」と表する本書の見解を受け入れると、後進サイトの未来は悲観的だが、現実的な解を模索するためにも本書の言う「インターネットをめぐる空想」から見直す必要があるようだ。山形浩生訳。

読売新聞
2021年2月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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