監獄の回想 アレキサンダー・バークマン著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

監獄の回想

『監獄の回想』

著者
アレキサンダー・バーグマン [著]/小田透 [訳]
出版社
ぱる出版
ISBN
9784827211160
発売日
2020/12/25
価格
3,080円(税込)

監獄の回想 アレキサンダー・バークマン著

[レビュアー] 栗原康

◆大義捨て囚人と心一つに

 一八九二年、アレキサンダー・バークマンはアメリカの実業家、ヘンリー・フリックを銃撃。ケガを負わせたものの、暗殺には失敗。逮捕されて十四年間の監獄暮らしとなった。当時、フリックはブラック企業の象徴的存在。そいつに天誅(てんちゅう)を喰(く)らわせることで、貧乏人は黙っちゃいないと行動で示したのだ。行動によるプロパガンダ。本書はそのバークマンによる監獄回想記だ。読んでいると、監獄制度がいかに非人間的であるのかがよくわかる。そして、それは会社や学校、この社会のあらゆる支配装置のモデルなのだと。よりよい人間にしつけましょう。嫌だ。

 もう一つ、本書の読みどころはバークマンの思想が監獄生活をつうじて徐々に変化していくことだ。元々、かれは革命のためにどんな犠牲も厭(いと)わないと思っていた。全人類の将来のために。その大義のためであれば、ひとの命を奪ってもかまわない。それが偉大な革命家。パーフェクトヒューマンだ。逆に人類のためにといいながら、自分たちを理解しない民衆のことは見下していた。なぜこの崇高な理想がわからないのか。わからなければしつけるまで。絶対正義の監獄だ。

 だが、実際の監獄生活がかれを変える。コソ泥、スリ、ケンカ屋、殺人者。仲間たちと共に監獄の日常的な支配と闘っていく。看守の目を盗み、資材を盗んで雑誌をたちあげ、さらに脱獄計画。知らぬまに監獄ストライキも巻き起こる。弾圧されて地下牢送りだ。仲間たちが精神に異常をきたし、バタバタと死んでいく。うおおお、友よ。そして思うのだ。なにが大義だ。全人類の将来など知ったことか。だいじなのはいまここで、もがき苦しみながら闘っているわれわれの生そのものだ。決して「人類」などに還元できない生の直接性そのものだ。狂い咲け、監獄の花たちよ。愛のために、あなたのためにこの花を咲かせましょう。おまえの監獄を爆破しろ。革命とはあなたの愛の爆風にほかならない。いつも心にダイナマイト! プリズン・ブレイクがみたい。

(小田透訳、ぱる出版・3080円)

1870〜1936年。ロシア生まれのアナーキスト。18歳で渡米。ピストル自殺。

◆もう1冊

ルース・キンナ著『アナキズムの歴史』(河出書房新社)。米山裕子訳。

中日新聞 東京新聞
2021年3月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク