『応仁悪童伝』刊行記念、木下昌輝インタビュー! たくましく乱世を生き抜き、大きな夢を目指す悪童たちを描く、エンターテインメント時代小説の誕生秘話に迫る!!

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応仁悪童伝

『応仁悪童伝』

著者
木下昌輝 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758413695
発売日
2021/01/15
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

特集 木下昌輝の世界

[文] 角川春樹事務所


木下昌輝、田口幹人

応仁の京で命を賭して戦う悪童たちを描いた長編小説『応仁悪童伝』が刊行された。カリスマ書店員としてヒット作を読者に届けてきた田口幹人が、魅力的な登場人物や作品の誕生秘話など、読みどころに迫る!!

 ***

作家に転身したキッカケから、宇喜多直家との出会い

田口幹人(以下、田口) 木下さんは大学の理工学部建築学科を卒業し、ハウスメーカーに勤務された後、小説家に転身されたんですよね。

木下昌輝(以下、木下) 元々のきっかけは、高校時代に所属していたバレー部で、運動神経が悪かったこともあり(笑)、万年補欠で居場所がなかった時に、当時のキャプテンから提案されて交換日記に書いた文章が部内で評判となり、「文章が上手い木下」というポジションをもらえたことです。そこで文章で人を楽しませる仕事につきたいと、小説家を目指すことに。そこで、読書家の友人に相談したところ、小説家になるなら引き出しを増やすことが必要だと言われ、理系と文系の中間と言われる建築学科に入学、卒業後はハウスメーカーに就職した後、さらに引き出しを増やすため10年ほどフリーのライターをしました。

2012年オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー、受賞作に書き下ろしを加えた『宇喜多の捨て嫁』がいきなり直木賞候補となりました。2018年には続編となる『宇喜多の楽土』を上梓されています。著名な戦国武将がたくさんいる中で、なぜ宇喜多直家を主人公に選んだのですか。

木下 ライターの仕事仲間が竹内流という古武道をやっていて、そのときめっちゃ太っていたので(笑)、ダイエットになればと思い道場に行ってみたら、この武道がすごく面白かった。その際、館長が教えてくれた「風呂詰め」という奥義の話が忘れられず、下剋上の武道に興味を持ったんです(風呂詰めとは、自分より強い人が道場破りに来たらまず、あやまれ。手下になり仲良くなったら風呂に入ってもらえ、そしたら皆で襲って殺せ、というもの(笑))。武士道は江戸時代にできた考えで、戦国時代の戦いは「風呂詰め」のような、騙し討ちが中心だった。これが本当の下剋上なんだ、と。この世界を書けば、オンリーワンになれると思った。竹内流を調べる過程で出会ったのが宇喜多直家でした。

自らの得意分野を知る

田口 作家の皆さんには作品の特徴、カラーというのがあると思います。僕は、木下さんのそれは、人間のドロドロとした、業みたいなところの生々しさと深さを描くトーンと角度なのではないかと感じていますが。

木下 そういうのに興味はあります。昔、アル中の話とかに興味があって、中島らもの『今夜、すべてのバーで』という小説を読んで精神病に興味を持つなど、人間の裏側や内側はどうなっているのかが知りたくなった。歴史も見てみたら、なんでこの人はこんな多くの人を殺してしまうのか、完全にその人の業としか言い様のない事象が見受けられた。そういうのを書きたいという思いがすごくあった。『宇喜多の捨て嫁』では、直家の話を忠実に書いたら、「血膿の臭いがかおるような作品だった」という評価をいただいた。そんなことを言われると思っていなかったので、すごく嬉しくて、もしかしたらこのような人間の業に関わる書き方が僕の作風なのかもしれないと感じました。その後、『人魚ノ肉』ではいろいろ書きたいことがあった中で、グロくて濃厚で凄惨な描写を突き詰めたらどんな風になるかなと考え、あえてやってみたのですが、予想以上に深く刺さる読者が多く、そこで僕の得意分野はこうなのだ、と感じました。


木下昌輝

『応仁悪童伝』の誕生秘話から作品の魅力に迫る

田口 デビュー作から連作短編か短編集が多かった木下さんですが、今回の『応仁悪童伝』で長編の書き下ろしに挑戦されました。ここからは『応仁悪童伝』についてお話を聞かせてください。

木下 応仁の乱の話を書きたくて。有名な戦国武将などではなくて、それを無名なわらべや足軽などの視点で書きたかった。正直に言うと。年の離れた知人に、7歳の時に原爆の被害にあい、両親を失った方がいます。少年ヤクザみたいな感じで浮浪児を集めてずっと生活していたという話がすごく印象に残っていた。元々は、もし、この人のように戦乱に巻き込まれた弱い子どもが運命に立ち向かう話を小説にするなら、と考えました。応仁の乱の時代の京都が浮かんだ。戦後すぐの焼け野原となった広島の町と、応仁の乱で荒廃する京の町が自分の中でぴたりと重なりました。応仁の乱を調べたら、当時の人間の業に関わるおかしな風習がたくさんあった。多数決で犯人を決めるとか、煮えたぎるお湯に手を入れてやけどしなければ無罪とか(笑)、こんな世界に放り込まれたらたまらないだろうな、と感じ、そのたまらない具合を書きたいと思った。

田口 『応仁悪童伝』には、魅力的な人物がたくさん登場します。名もなき足軽と稚児たちはどのように生まれたのですか。

木下 むちゃくちゃ苦労しましたね。最初に浮かんだのが一若で、彼から作りこんでいきました。一若が活躍して、パルクール(走る、跳ぶ、登るといったアクロバティックな動きが特徴のスポーツ)のようなことをさせたいと。そこにもう一人の中心人物、ケイですね。モデルなどはありませんでしたが、歴史上の実在する人物の隠し子という設定と、一若と対極の人にしようということは決めていました。二人で旅をさせようと考えていたのですが、それぞれ別の道を歩み、なかなか交わらない。書きながら、いつになったら交わるのだろうかと自分でもハラハラしていました(笑)。

田口 登場人物で、主人公たちはじめ男性はいうまでもありませんが、女騎・真板をはじめ女性たちが、すごく魅力的だったと思います。今回、特に意識をされたのでしょうか。

木下 真板は、一若やケイに影響を与える人物として登場しますが、最初は一若とケイが一緒に旅をしないものだから、絵的にかっこいい人物と旅をさせたいと思い、どちらかというとむりやり創ったキャラクターです。すごく気に入ったキャラなのですが、だからこそ途中退場した方がと思い、そうしましたが、物語としては重要な人物となっていますね。

田口 当時の政や祭り、そして風習についてのシーンがすごく印象に残りました。祭り儀や暮らしに占いや祈りが密接に関係していたのだな、と感じました。

木下 今でも、丙午の時は出生数が減少したり、あえて北枕で寝ないとか、呪いみたいなものを信じている人が多くいると思うと面白いですよね。あの時代、なぜここまで信じられるのだろうということについては不思議でしたし、それを元に行動していた当時の人たちはすごいですよね。僕は、ある意味において、歴史小説はファンタジー小説だと思っていて、剣と魔法じゃないですけど、その魔法に当たるのが風習だと考えています。風習という魔法を何とかリアリティを持って体感してほしいですね。

田口 『応仁悪童伝』は、物語としての構成の奥深さ、人物造形の面白さ、歴史上の事件や資料の組み合わせの妙とダイナミズムという木下さんの魅力が詰まった一冊となっています。ぜひお読みいただきたいと思います。

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【著者紹介】

木下昌輝(きのした・まさき)
2012年『宇喜多の捨て嫁』で第92回オール讀物新人賞を受賞。2014年『宇喜多の捨て嫁』を刊行。同作は 2015年に第152回直木賞候補作となり、第4回歴史時代作家クラブ賞新人賞、第9回舟橋聖一文学賞、第2回高校生直木賞を受賞した。2019年『天下一の軽口男』で第7回大阪ほんま本大賞、『絵金、闇を塗る』で第7回野村胡堂文学賞、2020年『まむし三代記』で第9回日本歴史時代作家協会賞作品賞、第26回中山義秀文学賞受賞。

【インタビュアー紹介】

田口幹人(たぐち・みきと)
2005年から19年までさわや書店勤務。全国的なヒット作を多く送り出す。現在、リーディングスタイルに勤務。著書に『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』など。

インタビュー:田口幹人 人物写真:石井克智

角川春樹事務所 ランティエ
2021年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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