春を待つ海 福島の震災前後の漁業民俗 川島秀一著 冨山房インターナショナル/津波とクジラとペンギンと 加藤幸治著 社会評論社

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春を待つ海

『春を待つ海』

著者
川島 秀一 [著]
出版社
冨山房インターナショナル
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784866000916
発売日
2021/02/05
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

津波とクジラとペンギンと

『津波とクジラとペンギンと』

著者
加藤幸治 [著]
出版社
社会評論社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784784517503
発売日
2021/01/22
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

春を待つ海 福島の震災前後の漁業民俗 川島秀一著 冨山房インターナショナル 1800円/津波とクジラとペンギンと 加藤幸治著 社会評論社 2400円

[レビュアー] 読売新聞

被災地に根ざす民俗誌

 東日本大震災から10年、被災地の救援・復興と関わって人々の暮らしに根ざす地域文化を照射した民俗誌がまとめられた。被災した地域社会の動向・変貌(へんぼう)を、被災前後にわたる生業・生活とともに地域に密着して描いた仕事で、被災地に入った民俗学者による民俗誌2冊である。

 前者は、被災後に出身地近くの福島県新地町の漁師に誘われて住民となり、漁船に乗り組む生活を自ら体験しながら調べた漁業民俗誌。

 沿岸漁業の実際、魚市場の作法、漁場・漁期などの漁業民俗、船の民俗、浜の年中行事、流船供養、ユイコ(相互扶助)関係、厄払いなど、多様で豊かな漁村の生活誌を紹介する。実体験にもとづくだけに、とても説得力に富む。

 後者は、鯨の町であった牡鹿半島の宮城県鮎川の生活文化をめぐる、被災後十年にわたる民俗調査の成果。文化財レスキューにはじまり、地域文化の再構築をめざし地元の人々に密着してまとめた民俗誌。

 鮎川は、金華山沖の好漁場の基地港で、近代に商業捕鯨基地として繁栄を極めた。人々の暮らしは、常に鯨とつながっていた。戦時の徴用を逃れた小型船による家業捕鯨と大手の産業捕鯨とは、戦後の黄金期をもたらした。資源保護のための調査捕鯨時代になると、暮らしは一変する。海産資源に富む土地柄、商業捕鯨の再開とともに多様な復興がめざされている。流動性に富む港町の生活文化を掘り起こす、より良い復興のための民俗調査が地道に進められた。

 生活者として被災地に入るなど密着型の民俗学者の、民俗・地域文化により地域づくりを支えようとする強い意志には、迫力がある。両書とも新しい公共民俗学の方向を示して、刺激に富んでいる。

 ◇かわしま・しゅういち=1952年生まれ。日本民俗学会会長◇かとう・こうじ=1973年生まれ。武蔵野美術大教授。

読売新聞
2021年3月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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