国際法の誕生 中井愛子著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

国際法の誕生

『国際法の誕生』

著者
中井 愛子 [著]
出版社
京都大学学術出版会
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784814002580
発売日
2020/12/09
価格
6,490円(税込)

書籍情報:openBD

国際法の誕生 中井愛子著

[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

 幕末維新の頃、世界には「万国公法」という国家間の普遍的な法があると思われていた。坂本龍馬もそう考えた一人だった。実際はそんな高尚なものではなく、ヨーロッパ「文明国」限定の「欧州国際法」に過ぎなかった。当然、アジア・アフリカ諸国はこれを受け入れるか否かの選択肢がなく、しかも、英仏独のような大国が自国に都合良く法律を変えることも当たり前だった。

 だが、今でも日本では国際法に幻想と期待感を抱いている人が多い。決められたルールに従うことが国際社会の一員の義務と思っている限り自らがルール作りにイニシアチブを取ろうという姿勢は生まれない。

 本書は、そんな国際法の歴史を意外な視点から示した意欲作だ。アメリカ大陸、しかも北米ではない。ラテンアメリカから欧州国際法が名実ともに世界の国際法に変容する過程を、丹念に明らかにしている。

 19世紀前半、欧州の植民地だったラテンアメリカ諸国の独立が相次いだ。その結果、領土や国境画定など国際問題を解決するため、そして旧宗主国の欧州からの脅威に対抗するため域内独自の国際法が形成された。この緊張関係はやがて欧州国際法を相対化。20世紀前半から戦間期にかけて、多元性を前提とした現在の国際法の原型が誕生する。その過程は、欧州国際法を非欧州諸国が受け入れて現在にいたるといった一般的に信じられている国際法観をひっくり返すものだ。

 近年、アジアでは中国やインドの台頭が著しくなっている。アジアでもラテンアメリカのように地域的な国際法が生まれ、現在の国際法に影響を及ぼす可能性は大いにあり得る。日本は国際法遵守(じゅんしゅ)を唱えるだけではなく、アジア諸国を巻き込んで国際法のイニシアチブを発揮することが必要だ。国際法とは何か、そして国際法をいかに主体的に活用していくべきか――。かなり専門的だが歴史として読み応えのある本書は、大きな示唆を与えてくれる。

 ◇なかい・あいこ=1975年、広島市生まれ。大阪市立大准教授。共訳書に『NGOと人道支援活動』など。

読売新聞
2021年3月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加