調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝 近田春夫著

レビュー

5
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調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝

『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』

著者
近田春夫 [著]/下井草秀 [著]
出版社
リトル・モア
ISBN
9784898155363
発売日
2021/01/28
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝 近田春夫著

[レビュアー] 小野島大(音楽評論家)

◆大衆音楽の異能 饒舌に

 日本の大衆音楽史上、これほど多面的な活動を長期間にわたり展開してきた人物は稀(まれ)だろう。歌手、演奏家、バンドマン、職業作曲家、CM作曲家、プロデューサー、タレント、文筆家など、すべてが一流。五十年以上にわたってロック、歌謡曲、ディスコ、ヒップホップ、トランス・ミュージックなどさまざまな音楽ジャンルで先駆的な役割を果たし、今なお意欲的な作品を作り続けている。まさに「鬼才」の名にふさわしい異能の人・近田春夫が、五十年の芸能生活を自ら語りおろした書である。その饒舌(じょうぜつ)さ、情報量の多さには圧倒される。日本のポップ・ミュージック史を語る際に欠かせない第一級の資料であり、かつ読み物としても滅法面白い。

 長い芸能生活で培った硬軟分け隔てない人脈の豊富さにも驚かされるが、やはり興味深いのが音楽に対する考え方や姿勢だ。「音楽に秘密はない。100%理屈で解析することができる」と断言し、「いったん仕組みを把握するとあとは飽きるだけ」と言い放つ近田は、ゆえにひとつのスタイルを徹底して突き詰め完成させることなく、次から次へと興味の赴くままに変わっていく。だから彼の音楽は「古典」として評価されることもないし、その道の「大家」として権威になることもない。だがそのフットワークの軽さ、こだわりのなさが、時代に取り残されることなく、五十年以上もの間音楽シーンの第一線にとどまらせている理由でもある。「戻るより進む方が好き」と言う近田にノスタルジーは一切ない。過去を振り返って懐かしむよりも、「いつだって、今が一番面白い」のだ。本書の記述も単なる思い出話になることなく、徹底して「今の近田の視線」に寄り添っている。だから往時を知らない若い読者にも興味深く読めるはずだ。

 義理堅く筋は通っているが真面目一辺倒ではない。どこか笑えて、でも野暮(やぼ)ったさとは無縁で、遊び半分のような軽さもある。そんな東京・山の手出身らしい近田の生き方は、本書での軽妙な語り口にも表れている。

(下井草秀(しゅう)構成、リトルモア・3080円)

1951年生まれ。72年結成の近田春夫&ハルヲフォンなど多彩な活動。『週刊文春』に「考えるヒット」を連載。

◆もう1冊

近田春夫著『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)

中日新聞 東京新聞
2021年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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