人之彼岸(ひとのひがん) ハオ景芳(ジンファン)著

レビュー

7
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人之彼岸【ひとのひがん】

『人之彼岸【ひとのひがん】』

著者
郝 景芳 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784153350519
発売日
2021/01/21
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

人之彼岸(ひとのひがん) ハオ景芳(ジンファン)著

[レビュアー] 仲俣暁生(文芸評論家、編集者)

◆AI社会の人間描く

 中国の優れた現代SF作家が日本に紹介される機会が増えた。経済成長とIT化により急激に変化する中国社会の姿を、SFという形式がもっともよく映し出すからかもしれない。本書の著者、ハオ景芳もその一人で、英訳された短編『折りたたみ北京』がアメリカの栄誉あるSF賞、ヒューゴー賞を受賞して以後、日本でも翻訳が相次いでいる。

 ハオの第二短編集である本書の収録作は、すべて人工知能(AI)をテーマにしている。その構成もユニークだ。物理学や経済学の専門知識をもつ著者は、本書の冒頭に二つの科学エッセイを置く。コンピュータの高速化とネットワーク化はAI開発に機械学習というブレイクスルーをもたらしたが、その半面で近い将来にAIが人間の仕事の大半を奪うのではないかという悲観的な未来予測もされている。二つのエッセイでは、そうした予測の妥当性が深い水準で論じられる。そしてAIが高度化する未来においても、小説をはじめとする芸術表現や人間の創造性は必要とされるのか、という大きな問いに対し、必要だとの答えを出す。その後につづく六つの短編は、いわばその実践編である。

 「人間の島」に描かれる世界では、AIが神のように人類社会に君臨している。人類は自由意志を放棄し、社会全体を見渡してAIが下す合理的判断に従っているのだ。そこに百二十年以上前に地球を出発した宇宙船が帰還し、彼らには受け入れがたい未来社会と対峙(たいじ)する。「愛の問題」ではある殺人未遂事件の真相が解き明かされるが、主要な登場人物の一人は「スーパーAI執事」つまり高機能ロボットである。最終話の「乾坤(チェンクン)と亜力(ヤーリー)」では、万能のAIが三歳半の子どもから学ぶことがあるとしたら、それは何かという深淵(しんえん)なテーマが描かれ、感動的な読後感をもたらす。

 ハオは中国農村部の児童に対する教育プログラム「童行学院計画」の主宰者としても知られており、科学や教育への深い理解も、その実践から得られているのだろう。AIが人類を支配する未来に絶望する前に、ぜひ読んでほしい一冊である。

(立原透耶・浅田雅美訳、早川書房・1980円)

1984年生まれ。作家。清華大で天体物理学を専攻し、経済学の博士号取得。

◆もう1冊

『ハオ景芳短篇集』(白水社)。及川茜(あかね)訳。中国社会の諸問題を反映した7編。

中日新聞 東京新聞
2021年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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