『九条の大罪』
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【聞きたい。】真鍋昌平さん 『九条の大罪』 誰にでも起こり得る恐怖
[文] 本間英士
題名に「九条」とあるが憲法の話ではない。2月末に1巻が発売されたばかりの弁護士漫画だ。作者は平成16年から15年間、闇金融がテーマの漫画「闇金ウシジマくん」を連載。今作でも社会の暗部や犯罪の裏側が生々しく描かれるが、得られる知識や教訓も多い。
「日本は法治国家で、法律はどのような人にも関わってくる。お金以上に社会を幅広く描写できるし、より人の深い部分を描ける」
主人公は変わり者の弁護士、九条(くじょう)。法律と道徳は分けて考え、依頼があれば悪人でも弁護する。第一話の依頼人は、飲酒運転で親子をひき逃げした男。裁判で男は執行猶予を勝ち取る一方で、父親を亡くし悲しむ被害者遺族は金銭面でも大損をする。法律知識がなく、弁護士もつけなかったからだ。
逮捕拘留から裁判に至るまでの流れ。「無知」がどれだけのデメリットを生むか。裏社会の人間の思考回路とは…。本作の魅力は、多くの人が知らない見識を得られる点にある。執筆に当たり法律関係者ら約100人に取材し、弁護士の監修も受ける。「世の中には知らないと損をすることが多い」と実感したという。
「交通事故をめぐるトラブルなど、誰にでも起こり得る恐怖を描きたかった。自分が気になるのは、犯罪を起こした人の背景やこれまでの人生。加害者側の事情を取り上げていきたい」
小学生の頃、「ドラえもん」に感動して漫画家を志した。その後、不良ばかりの荒れた高校に進学。この時の「最悪な3年間」が、救いのない状況に追い込まれる人々をリアルに描く後年の作風に影響を与えた。
「読者を嫌な気持ちにさせようと思ってるわけじゃない。人間の真に近い部分を描くと、自分の場合どうしてもああいう形になる」
読んで苦い気持ちになるのは分かっているのに、ついページを先へめくりたくなる。怖いもの見たさか、物語の持つ訴求力ゆえか。
「『ウシジマくん』で15年培った経験や知識を全部入れ込みたい。より多くの人に読んでもらえたらうれしいです」(小学館・591円+税)
本間英士
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【プロフィル】真鍋昌平
まなべ・しょうへい 昭和46年、神奈川県出身。平成10年に漫画家デビュー。