『LETTER FROM NEW YORK 篠原有司男から田名網敬一へ、50年の書簡集』篠原有司男著、田名網敬一監修

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LETTER FROM NEW YORK

『LETTER FROM NEW YORK』

著者
篠原有司男 [著]/田名網敬一 [監修]
出版社
東京キララ社
ISBN
9784903883366
発売日
2021/01/15
価格
2,200円(税込)

『LETTER FROM NEW YORK 篠原有司男から田名網敬一へ、50年の書簡集』篠原有司男著、田名網敬一監修

[レビュアー] 渋沢和彦

 ■大御所二人の友情の証し

 篠原有司男(うしお)氏(89)は、20代のとき、墨や絵の具を付けたボクシングのグローブをつけ、紙やキャンバスをたたきつける「ボクシング・ペインティング」で一躍有名になった。以来、第一線に立ち続ける現代美術家だ。彼が米国から手紙を送っていたのが、ポップ・アートなどの作品で知られ、国内外で活動しているアーティストの田名網(たなあみ)敬一氏(84)だった。本書は1969年から2017年までの手紙を中心に編集した。

 69年、現代美術の中心地のニューヨークへ渡った篠原氏。着いて早々、〈ジム・ローゼンクイストがタダでバレーボールができるようなものすごい広さのやつを貸してくれ、いまや二つ持つ身です〉(69年6月)と、ポップ・アートの旗手がアトリエを貸してくれたことを誇らしくつづる。個展を行えば〈ついに待望の「ニューヨーク・タイムズ」に出ました〉(82年10月)と高揚した気持ちを隠さない。

 が、現実はそう甘くない。絵画や彫刻などを創っていても次々に売れるわけではない。だから〈送金の方もよろしく。頼りにしています〉(同)とお金の無心もしばしば。田名網氏は本書で〈表現者としての資質は天性のものだし、今現在も子どもの感性を失っていない〉と書く。尊重しているから援助は惜しまない。競争が激しい地で活動できたのも、彼のような良き理解者が陰で支えていたからだろう。いまや大御所となった両者の交友は60年を超えて続き、手紙は友情の証しでもある。

 現地情報も興味深い。〈SoHoもgalleryが増えに増え、50軒以上で大盛況です〉(75年1月14日)などと書き、アートシーンを伝える。巻末には2人の対談を収め、半世紀以上前、日本で前衛芸術運動を展開した美術家の裏話などを明かす。日米で熱い美術が勃興した時代の一断面を示す貴重な資料ともいえるだろう。

 パワフルな文字の手紙やスナップ写真を大胆にレイアウト。作者の息遣いを感じさせ、遊び心あるアート・ブックに仕上げたのは、監修した田名網氏の手腕といっていい。篠原氏が田名網氏の手紙の整理ができていなかったため、往復書簡集にはならなかったが、ともに現役だからこそ実現した“共作”だ。(東京キララ社・2000円+税)

産経新聞
2021年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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