義肢装具士や医師を通して、人生との向き合い方を考えさせられる小説2冊

レビュー

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神様には負けられない

『神様には負けられない』

著者
山本, 幸久, 1966-
出版社
新潮社
ISBN
9784103227229
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

処方箋のないクリニック

『処方箋のないクリニック』

著者
仙川, 環, 1968-
出版社
小学館
ISBN
9784093866019
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森 医療・介護]『神様には負けられない』山本幸久/『処方箋のないクリニック』仙川環

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 2019年の秋に書店で見つけた新刊は、ジェノサイドが起こったルワンダで義肢装具士をしているルダシングワ真美さんについてのノンフィクションだった。彼女が彼の地で、長年義肢装具を無償提供していることを知り、些少だが応援するようになった。

 最近ではパラリンピアンたちが装着しているスタイリッシュな義肢が注目されているが、肢体を失った人にとって、義手や義足は欠かせないツールである。

 山本幸久『神様には負けられない』(新潮社)は、国家資格である義肢装具士を目指す3人の青年が主人公だ。渋谷医療福祉専門学校はラブホ街の真ん中にあるが、ここで3年間みっちりと教育を受け国家試験に挑む。

 7年間内装会社に勤めたのち、義肢装具士を志した二階堂さえ子、アフリカで活躍する女性義肢装具士に憧れる永井真純、工業高校時代に既に電動義手を作ることができるほどの技術を得た戸樫博文、この3人が班を作り作業を進めていく。

 義手義足を使うようになる理由は様々だ。生まれつきの障害もあれば、交通事故や病気で切断せざるを得ないときもある。

 絶妙なバランスで作られている人間の四肢を新たに作って不自由なく使ってもらうためには、微妙な調整と入念な聞き取り調査が必要だ。技術も使い勝手のいいものを作る力もすぐに身につくわけではないが、神様が作ったものに負けないようにと彼らは腕を磨いていく。

 彼らはまだ修業中。社会に出て、どんな義肢装具を作り出していくのだろう。物語の続きを見てみたい。

 医療の発達に伴い、医師たちが専門化している。しかし、ちょっと具合が悪い時、どこの科にかかったらいいか悩んだことはないだろうか。国はそんなときのためにかかりつけ医を推奨しているが、あまり病気をしない人や転勤族など、決まったクリニックを持たない人は多いだろう。

 そんなときのために医療よろず相談窓口があったらどんなにいいだろう。仙川環『処方箋のないクリニック』(小学館)の青島倫太郎はそんな医師である。

 青島総合病院創設者の長男で、外国留学も果たしたイケメンでスイーツ好きな凄腕内科医だが、病院経営は弟の柳司にまかせ、倫太郎は敷地内にある古びた洋館で、看護師一人を助手にして総合内科という医療相談窓口を開いている。

 自由診療だが初診料はやすい。命に係わるわけではない緑内障や関節症、肥満・高血圧、アトピーなどの相談を受け付けている。

 救急車で運ばれたり、大手術が必要だったりするわけではないが、本人が家族の負担になっているという鬱々とした気持ちと一緒に病気を治してしまう名医なのだ。

 病気になると心細いもの。何とか気持ちを奮い立たせ大丈夫だと思い込む患者は多い。頑なな心をほぐすのは親身な会話だけかもしれない。「医は仁術」という格言を久々に思い出させてくれる小説だ。

新潮社 小説新潮
2021年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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